粒と美化 成瀬くりの家保育園に今、湧き上がるもの
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2024/05/09
社会福祉法人 東香会の各施設の施設長に、保育統括理事 青山誠がインタビューし各施設の魅力をお伝えします。
最終回は、社会福祉法人 東香会の理事長であり、成瀬くりの家保育園 施設長の齋藤紘良へのインタビューをお届けします。
成瀬くりの家保育園の概要はこちらをご覧ください。
保育統括理事 青山誠:
成瀬くりの家保育園はJR成瀬駅から少し離れた住宅街にあって、園庭が2つあるんですよね。一つは入ってすぐの園庭と、奥に野原のような草花が豊富に生えている園庭(やまぐりの庭)がある。
建物の感じも含めて、保育施設というよりは、家庭的な印象もあって、すごく素敵な園舎です。
今日は、法人の理事長でもあり、そして今年度は園長としてくりの家の職務に携わっている齋藤紘良さんにお聞きします。成瀬くりの家保育園の今の旬は何でしょうか?
理事長・成瀬くりの家保育園 施設長 齋藤紘良:
この前、家の奥から出てきた塩のビンを使おうとしたら中で固まっていたのです。振っても出てこなくて、ゴロゴロと塩の塊が中でうごめいていてなかなか外に出せなかった。通常であればサラサラしていて、一つ一つの粒が出てきやすいんだけど、やっぱり使っていなかったり水分が入って固まってしまうとどうしても粒がうまく出ていかないし、その塊の中からもれる粒っていきなりバサッとか出ちゃうのでちょっと迷惑というか厄介になってしまう。それぞれの粒が独立していてサラサラして出ると気持ちが良いんだけど。
今、成瀬くりの家保育園で意識しているのは、塩のように、一つの共同体には入っていながら一人一人が固まらず個の味を出していけることを大事にしたいなと思っています。同じ質感でありながら個が固まらないというか、個が同調し合わなくても存在するということを人間関係の中でも進めていきたいことです。これは子どもたちの人間関係にも言えるし、大人たちにも言える。
青山:
そうですね。まず対話のための前提条件があると思うんですよね。それって何かというと、それぞれが個としていられるかどうか。保育について対話の前提条件が揃ってないと、まわりの反応を見て自分の意見を出しづらいとか、あるいはそもそもそういうふうに意見を求められたことがなく慣れていないとか。子どものことを話すにせよ、大人の中で起こっているいろんなことを話すにせよ、やはりその前提条件がないと難しい。
紘良さんが今やろうとしていることは、攪拌することで、それぞれの人の個を、粒を粒のままの状態でいられるためにどうしようか、というところなのかなという気がします。
今、具体的に、意識してやってるアプローチは何かありますか?
紘良:
話がちょっと離れてしまうかもしれないんですが、「美化」に力を入れています。「美化」って、決められたことを淡々とするのが美化ではなくて、それぞれの個の感覚で「美しいな」と思えるものを出していく。「この人はこういう美しさの感覚を持ってるんだな」とか「あの人はこういうのを美しさと考えているんだな」とか個の感覚が如実に現れます。それぞれが美的感覚を出してみると、一粒一粒がはっきり見えてくる。
右:高橋清氏による版画
青山:
そういう、美しいとか整えるって人それぞれのところもある中で、どんな風にやっているのですか?
紘良:
一人一人の美的感覚を広げたいものの、パズルと一緒で「フレーム」は大事だと感じています。成瀬くりの家保育園という場をフレームとして考えながらコミュニティの美の方針を整えておく。仮にフレーム作りから始めるとすると話し合いが必要で、美的感覚の文化を作るにはとても時間がかかりますね。文化習慣っていうのは普通は、最低でも100〜200年ぐらいかかって出来上がるものだから。
そういう意味でフレームはある程度「方針」として掲げておくのだけど、そこからはみ出てしまったりとか、そこにはまりきらない人が出てくるとか、それもまた面白がりたい。そういう余裕のあるフレームがいいなというのは思います。あまりにもそのフレームがカチっと決まってしまって、さっきの塩みたいに振ることすらできないようになってしまうと、それぞれの人が自分自身の「美しさ」を考える余地がなくなるので。
個で考えられる余地を残しつつ、コミュニティのフレームを作っていくっていうバランスを僕自身も悩みながら挑戦してやっていますね。
青山:
それとの関連でいうと、最近のくりの家で印象的だったのは、ロゴを整えて、Instagramにアップしていますよね。Instagramの感じもちょっとずつ変わってきてる感じがします。この点については、法人の理事長でもある紘良さんにお聞きしたいのですが、外へ向けて自分たちのことを伝えていくことの良さとか必要性って、どんなふうに意識しているのですか?なぜ最初にロゴを作ろうって思ったのか。
紘良:
ロゴは、さっきのフレームとしての美しさを示すためでもありますね。
外側から見られるということの大切さというのは、内省的批判を引き出すことだと思う。内側から自分を批判するというか、「僕がやりたいのはこれじゃない」とか「もっとこうしたい」という意思が出てくるのは、外側からの目線を意識することによって出てくるのではないかと思う。
ロゴを作ったのは、成瀬くりの家保育園が「みられること」をあらためて意識して、自分たちの保育生活を見直すきっかけにしたかったし、これからもこの美しいロゴを見返しながらたびたび内省していきたいです。
青山:
その場にいる人たちが自分たちをどう表現しようとしてるかって、とても大切なことだと思うんです。それがあるから、外にいる人にとっても対話やコミュニケーションの入り口ができるというか。なんでそれをそういうふうに表したいのかなっていうところをきっかけに、その背後にある日常のことや、意識していることも見えてきやすい。
だから表現するということの中に、実はその後に続く内外の対話という視点もある気がします。
紘良:
本当にそうですね。結局内側からしか変われない。外側から言われてその通りに変わるわけではなくて、自分たち自身で変わるために外見を意識したい。美化とかロゴ新調とかは、ただ見栄えを良くするだけという想いではないですね。自分たちの力で変化していくために外側からの意見が欲しいっていう感じかな。
青山:
あと、やっぱり閉じている場ってちょっと怖いですよね。対話のしようがないというか、その場の中ではもう論理もロジックも決まっていて、やっぱり触るに触れないし、場所そのものもどこに腰を下ろしていいかわからないというか。そういう場所ってあるなって気がして。身体がいちいち許可を求めちゃうっていう感じが空間でも出ちゃう時ありますよね。
紘良:
ざっくりした言い方になってしまうけど、空間は柔らかいのが好きです。成瀬くりの家保育園は柔らかくなっていきたい。
青山:
紘良さんが、成瀬くりの家保育園の職員と一緒にこれからやってみたいことは何かありますか?
紘良:
上町しぜんの国保育園でやっている「園内勉強会」とか、保護者と一緒に内側から園を見ていくということへの憧れが僕の中にあります。いくつかの園で園長をやりましたが、まだそこが自分で捉えきれてない部分があるのでぜひやりたいですね。
そのための小さなトライですが、先日、保育者の研修を保護者にリアルタイム配信してみました。
青山:
へーすごいな。僕も一回考えたんですよね。保育の会議を保護者に配信したらいいんじゃないかなって。ただ遊んでるわけでは全然なくて、実は保育者がいろいろ話しながら保育をしていることを伝えられたらなと思ったことがあります。
成瀬くりの家保育園の、内側から湧き上がる熱量がどんなことにつながっていくのか、とても楽しみです。
理事長・成瀬くりの家保育園 施設長 齋藤紘良
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