「子どもにとって園庭とは」東香会 2023年度 分野別研修発表会-2
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2024/02/01
東香会が独自におこなっている「分野別研修」は、法人内の6つの保育施設*を横断して職員が学び合う対話型、往還型の研修プログラムです。
*しぜんの国保育園(町田市)、成瀬くりの家保育園(町田市)、ののはな文京保育園(相模原市)、上町しぜんの国保育園(世田谷区)、渋谷東しぜんの国こども園(渋谷区)、山崎学童保育クラブ(町田市)の6施設
各施設から担当者(コーディネーター)が集まり「分野別研修検討チーム」が組まれました。まずこのチームでミーティングを重ね、研修内容を協議してそれぞれ取り組みたいテーマを決め、全5分野のテーマが決まりました。テーマごとに各施設から担当者が集い、全3回の研修を重ねてきました。
2023年度のテーマ:
・障がいってなんだろうと考えることから、保育を考える
・リフレーミング 〜保育・保育者の価値を考える・伝える〜
・保育の中にある言葉を探る 〜ことばの手触り〜
・赤ちゃんから見える五感の世界
・子どもにとって園庭とは
上記の中からこの記事では、2024年1月に開催された分野別研修発表会での「子どもにとって園庭とは」のステージ発表の様子をお届けします。
前のステージ発表「障がいってなんだろうと考えることから、保育を考える」に続いておこなわれました。
園庭に大きな築山を作ってみた
コーディネーター:
わたしは東香会に中途入職し、園庭が変わると保育や遊びが変わることに気づきました。「子どもたちにとって園庭はどんな存在なのかな?」「どんな園庭だったらどんな遊びが広がるのかな?」ということをもっと知りたいと思ってこのテーマを提起しました。まずは、集まった担当者同士で、他園にはどんな園庭があるのか、どんな保育や遊びをしているのかを共有することから始めました。
担当者S:
自園の園庭は全体が平らで凹凸がありませんでした。職員から園庭を見直そうという話が盛り上がり、築山を作ることになりました。保育者たちが土を盛りましたが小さな築山しか作れず、すぐに子どもたちに踏みならされて平らになってしまいました。
そこで保護者にも協力をお願いしたところ、20名を超える参加者が集まってくれました。運良く4トンの土をいただくことができて、2時間ほどで大きな築山が完成しました。それまでの平らで広々とした園庭も良かったのですが、築山ができたことで空間が区分されて、園庭に変化が生まれました。子どもたちはそれぞれが居心地の良い場所を探し、遊びを楽しんでいます。
それぞれの園による園庭の違いはどんなものだろう?
担当者M:
自園には園庭がありません。子どもが自然と触れ合う機会が少ないのではと思われるかもしれませんが、そう感じたことはありません。それは、わたしたちが街全体を園庭と捉えているからです。高層ビルが立ち並ぶ街に出て、公園の中で自然を探したり、近くのお寺で木の実をみつけたり、夏みかんをいただくこともあります。
担当者Y:
研修で訪れた他園で、子どもたちが裸足で遊んでいる光景を目にしました。園でも裸足で遊ぶ機会を作りたいと思い、まずは砂場を整備して裸足で入れるよう計画しました。実際に遊んだ子どもの中には意外と抵抗があった子もいたようで、「裸足になっても大丈夫なの?服が汚れても良いの?」など戸惑う声も上がり、そういう反応もあるのだなと気づかされました。
また、園では園庭でランチを食べたりして季節を楽しんでいます。
担当者S:
担当者間で各園の園庭での事例を共有していくうちに、遊ぶだけではなく食など暮らしの側面もあるのではないかという話が持ち上がりました。園庭で果物を収穫したり、煮炊きをしたり、濡れた洗濯物を干すこともあります。
進行管理・アドバイザー 保育統括理事 青山誠(以下、青山):
これは何気ない保育の日常の写真だけど、洗濯物が干してあって。園舎/室内、園庭/屋外の際(きわ)には暮らしの要素が滲み出てきますよね。保育の中での園庭の環境というと、わたしたち保育者は「遊び」ということばかりに着目しがちですが、実際に起こっていることはもっと多様です。
遊ぶだけではない、園庭の存在
担当者K:
わたしは栄養士ですが、園庭での食の風景を切り取って事例共有しました。先月に園で開催したフェスでは、パン窯を作って味わったり、七輪に火を起こし収穫したばかりのサツマイモを焼いたりもしています。みんなで火を囲んで温まり、時間を掛けてご飯を作って、次第に良い香りに包まれている。そんな食の側面としての存在も園庭にはあります。
担当者R:
自園の園庭には、たくさんの果樹があります。10月に園で開催したイベントでは、子どもたちが収穫した葡萄に砂糖を加えてシロップにしてかき氷を作りました。3歳児クラスが収穫を担当したのですが、生い茂る葉に隠れて高いところに実った果実を見つけられず、4歳児に果実の在処を教えてもらいました。4歳児はこれまでにいろいろな果実を収穫してきた経験もあるし、園庭がよく見える保育室内から葡萄がだんだんと実っていく姿をしっかり見ていたのです。
また、収穫祭では保護者と一緒に焚き火をしてお芋を焼いたり食べ物を持ち寄ったり、楽しい時間を過ごしました。園が主催するのではなく保護者と一緒に開催していることを意識しました。
条件があるからこそ、人は創意工夫して豊かになる
青山:
こういった事例を通して見てみると、園庭って結構不思議な存在ですね。人が交わってごちゃごちゃになるイベントでは特に関係性や境界線が曖昧になります。たとえば、保育者と保護者の関係は、普段は保育者が保育を提供するという矢印がありますが、一緒になって煮炊きしたものを食べたりすることでその関係がちょっと曖昧になってきます。「これ美味しいですよね。あそこの木に実っていたのですよ」という会話も生まれる。保育者と子どもも同じで「今日はあれを収穫して食べようか」という会話をする時には関係性が曖昧になる。そういう風にわたしたちは園庭を使っているわけです。
また、環境によって異なる「条件」があることも再認識しました。都心の園には園庭はありませんが、それは限定や制約ではなくて条件なだけです。その条件の中で自分たちはどんなアプローチができるかを考えて実践していく、「園庭がないのではなくて、街全体が園庭」と捉えていくこと、これはまさしくリフレーミングです。
その点において、「うたげと初心」(2023年11月に東香会が開催した保育セミナー)にご登壇いただいた鈴木ひでひろさん(社会福祉法人わこう村 和光保育園)のコメントが印象に残っています。「うちは環境が豊かだから困るんだよな。豊かだと創意工夫することが消えていく」とおっしゃっていました。まさにその通りで、人は条件があるからこそ創意工夫して豊かになり、どんな面白いことを見つけにいこうかという姿勢になれいます。園庭がある/ない、どちらが良いかということではなくて、保育においては条件の中で自分たちがどのようにアプローチしていくかということが大切なのです。
コーディネーター:
この研修の前には「園庭=遊びの場」という認識でしたが、みんなが持ち寄った事例を通して、園庭では暮らし、保護者・地域の方との交流、いろいろな出会いができる場であることに気づかされました。また、都心の園ように園庭がないからこそ、街へと出会いに行けるということはとても素敵だなと感じました。
2つのテーマのステージ発表の後は、会場で全5分野のブース発表が行われました。各分野のコーディネーターと担当者が発表します。
グループに分かれて話し合う、マップを作るなどの参加型の研修発表など、全施設の職員が混ざり合って、発表者と見学者の活発なやりとりがおこなわれました。
考え続けているという姿勢
研修発表会の最後に、東香会 理事からは以下のようなコメントがありました。
「日々、皆さんが現場で起こる様々なことに対応しながらも、全体を観察しながら考え続けることを大切にしている姿勢が素晴らしいと感じました。
『問いを立てることが大切だ』と世の中でも言われていますが、何かのきっかけがなければそれを実行し続けることは難しい。『わかりやすいことが良いことだ』という価値観がもてはやされたり、検索すればすぐに情報や答えが出てくる時代の中で、考え続けることは『コスパ』も『タイパ』も悪いとも言われがちです。
しかし、日常をつぶさに見ていれば問いはいくらでも生まれてきますし、隣の人と話すだけでも全く違う見方もあるのだということに気づかされます。分野別研修のように、自ら立てた問いをみんなで共有しながら考える場をつくり続けていくということはとても重要です。」