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「障がいってなんだろうと考えることから、保育を考える」東香会 2023年度 分野別研修発表会-1

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2024/02/01

東香会が独自におこなっている「分野別研修」は、法人内の6つの保育施設*を横断して職員が学び合う対話型、往還型の研修プログラムです。
*しぜんの国保育園(町田市)、成瀬くりの家保育園(町田市)、ののはな文京保育園(相模原市)、上町しぜんの国保育園(世田谷区)、渋谷東しぜんの国こども園(渋谷区)、山崎学童保育クラブ(町田市)の6施設

各施設から担当者(コーディネーター)が集まり「分野別研修検討チーム」が組まれました。まずこのチームでミーティングを重ね、研修内容を協議してそれぞれ取り組みたいテーマを決め、全5分野のテーマが決まりました。テーマごとに各施設から担当者が集い、全3回の研修を重ねてきました。

2023年度のテーマ:
・障がいってなんだろうと考えることから、保育を考える
・リフレーミング 〜保育・保育者の価値を考える・伝える〜
・保育の中にある言葉を探る 〜ことばの手触り〜
・赤ちゃんから見える五感の世界
・子どもにとって園庭とは

上記の中からこの記事では、2024年1月に開催された分野別研修発表会での「障がいってなんだろうと考えることから、保育を考える」のステージ発表の様子をお届けします。

障がいをテーマにすることへの戸惑い

コーディネーター:
研修テーマを「障がい」にしたきっかけは、ダウン症の職員が入職したことです。園の外の世界では障がいを持った人と認識されますが、言葉を発することができないので意思疎通は筆談を通しておこない、お互いにユーモラスなコミュニケーションをしたりして、「その職員が持つ特性」と次第にみんなが捉えるように自然に変化していきました。
また、保育者として障がいを持つ子どもたちと出会う中で、共生社会と言われている中で障がいということを捉え直すことによって、保育や子どもとの関わり合い、そして、どう一緒に過ごしていけば良いかを考えるきっかけにしたいと思ってこのテーマに決めました。

進行管理・アドバイザー 保育統括理事 青山誠(以下、青山):
このグループは悩むところから始まりましたね。最初は参加者間で話し合う内容に摩擦や戸惑いもあったし、そもそも「障がい」というテーマにアプローチしてよいか悩み、誰かの失礼にあたらないかといったことについて考えるところから始まったことを覚えています。

担当者Y:
障がいというテーマについて考え始めた時に、自分ではわからないことが多すぎて施設長に相談したところ「そんなに難しく考えなくても良いんじゃない?」とアドバイスをもらいました。
それでも、最初の頃は参加者の中で「障がい」という言葉を軽々しく使うことへの抵抗を感じていました。みんなで事例を共有しようとしても口籠もってなかなか話が進みませんでした。


人による発達の凹凸の違いから生まれる社会モデルとしての障がい

担当者K:
養成校での保育教育において、一般的に障がいとは医療モデル/社会モデルと習ってきたけれど、その区分についても難しくて戸惑いました。これまで詳しく関わったこともなかったので、「医療モデルで診断名がついていないといけないのかな、発達障害ということもあるよな…」と疑問が浮かびました。

コーディネーター:
議論を重ねていく中でわたしたちのグループで考えていきたいのは、医療モデルとしての障がいではなく、暮らしの関係性の中で出てきてしまう障がい、いわゆる社会モデルではないかという方向性が見えてきました。
そして、社会モデルの側面から障がいを捉えてみると、現在の社会構造そのものが発達の凹凸の少ないマジョリティを対象に作られており、マイノリティである発達の凹凸の多い人々が直面する社会的な障壁に対して無自覚や軽視をしているとも言えます。
つまり、マジョリティな人々も含め、わたしたち一人ひとりにも責任があるということに気づかされました。そこでは、「あなたは今、弱者ではないかもしれない。しかし、どの文脈で弱者になるかは誰にもわからないのである」という、下地理則さん(九州大学人文科学研究院准教授)の研究のお話にも考えさせられました。


また、いまの自分たちにとっては「障がい」という言葉が重すぎて萎縮して率直に考えられなくなってしまうため、「障がい」→「差しさわり」という言葉に置き換えて考えてみることにしました。生活の中で何か困ったことがあるという差しさわりを考えてみようということになり、このことでぐっと「自分ごと」になってきました。

保育生活の中での社会モデルの障がい、差しさわり

担当者O:
「差しさわり」という言葉にしたことでみんなに話せる自分のエピソードが増えてきました。ある子どもが友だちとの喧嘩を繰り返し何度話し合っても良くならないことがありました。どうやってもうまくいかない状態でわたしも深く思い悩みました。保護者の方との話し合いの中で、葛藤する気持ちの中から生まれた自分なりの考えを話し、それが伝わったかもしれない。そんな経験談をグループで共有しました。

青山:
この時、気持ちがまだ整理しきれていないホットな状態でこの話を研修参加者に開示してくれました。このことにより質的にグループの中での話し合いの熱が変わったことを感じました。

担当者M:
病気により発達がゆっくりの幼児がいて、周りの子どもたちが「赤ちゃん扱い」して関係性が変わっていったことがありました。そのことを研修で話したところ「子どもたちと一緒にミーティングしてみてはどうか?ただし、個別の差しさわりとして捉えてしまっては、自分とは無関係なことになってしまうため、それをもっと普遍的な視点で聞いてみてはどうか」というアドバイスをもらいました。
そこで、子どもたちに「自分が友だちから苦手なことについて言われたり、赤ちゃん扱いされたりしたらどう思う?」と投げかけたところ、みんな「嫌だ」と返ってきました。「みんなも苦手なことはない?」という問いに対して、それぞれ自分の身近にもいろいろな差しさわりがあるのだな、ということを子ども自身が考えるきっかけになりました。

担当者Y:
差しさわりということについて子どもたちと話すことを通して、倫理と規範について学んでいると感じました。障がいを差しさわりとしたことで考えやすくなり、参加者と話を重ねていく中でどこの園にも差しさわりがあって、「この人はそこで、わたしはここで」といったように大人同士であっても差しさわりの感じ方はそれぞれ違うということを認識して、それを共有することが大切なのだと学びました。

担当者I:
このグループの話し合いの中で、わたしの頭の中は「差しさわり」で一杯になり悩み考えたテーマでした。その中で、一人の子どものことを思い返していました。わたしが提案したことは何でも「イヤ!」と断る。そのことは自分にとっての差しさわりかなと感じていたのですが、ある時、わたしが休憩中にその子が友だちとはとても楽しそうに遊んでいる姿を見ました。「あれ?その子こそが、わたしに差しさわりを感じていたのかな」と思い、「差しさわりの主語って一体誰なのだろう」ということを参加者と話しました。

コーディネーター:
ここまでみんなで率直に深く、ガッツリと話し合えるとは当初は思っていませんでした。生活の中の些細なことに差しさわりを感じてしまうのは自分であり、相手はどう感じているか、しっかり受け止めないとわからないということに気づかされ、保育の見方が変わることにつながる研修でした。

青山:
時間になったのでステージ発表はここまで。詳しい内容については、この後のブース発表に足を運んでみてください。


次のステージ発表「子どもにとって園庭とは」へと続きます。