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創造の楽しさを、子どもたちや保育者に広げるアトリエ担当

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2023/08/17

東香会では、子どもが自分の気持ちや考えを自由に表現できるような創作活動を大切にしています。保育者が一方的に教えるのではなく、子どもたちが興味や関心を持って表現したいことを見つけ、保育者も一緒に楽しみながら制作の方法を探していきます。
制作のためのさまざまな素材や道具が揃った園内の「アトリエ」と呼ばれるスペースでは、アートの専門的な知識や技術を持つ保育者と子どもたちが毎日の生活の中で創作活動に取り組みます。今回は、アトリエ担当のぶさんにインタビューしました。

プロフィール
のぶさん 東香会に入職して8年目(取材時)
香川県の浦島太郎が暮らしていたという伝説のある街で生まれ育つ。京都芸術大学 こども芸術学科で、子どもと芸術の関わりを学び保育士資格を取得。新卒で東香会に入職し、町田・しぜんの国保育園を経て現在、渋谷東しぜんの国こども園のアトリエ担当。
「最近は石粉粘土を使った造形作品を制作しています。フィギュア制作も好きなのでシリコンで型取りして、そこに樹脂を流し込んでパーツを作り、それを組み合わせて自身の作品を作っています。集中して制作する時は、勤務が終わって帰宅して夕食を食べて深夜まで制作しています。爬虫類が好きで、自宅で飼育しているカメレオン、トカゲ、ヘビ、ヤモリが創作のモチーフになることがあります。」

アトリエ担当って何ですか?
(渋谷東しぜんの国こども園 名古屋園長)子どもたちの“不思議だな…” “やってみたい!”に対して保育士とともに向き合い、考えていく人です。アトリエの管理や環境整備も行いますが、一番大切にしてほしいことは、今まで培ってきた表現者としての側面と保育士の視点も混ぜて子どもと関わることです。また、のぶさんの子どもをみる視点が日々の保育にスパイスとして加わることで、子どもたちの表現がより豊かになることを期待しています。時にはのぶさんがアトリエの中で黙々と絵を描いている時間もあります。そんな大人の真剣な姿を子どもたちがみて、憧れの存在となっていく。いつのまにか、子どもたちの描く怪獣が奥行き感のあるものや、舌の質感まで伝わってくるような絵になっていることもあります。

自分のイラストをけなされて、それでも芸術の道の可能性を諦めなかった

幼いころから妹や親戚の子どもの世話をすることが多かったので、保育の仕事に興味がありました。中学校の職場体験では保育園を選択したのですが、そこで働いている保育士は女性ばかりだったので、男性は保育士にならないのかな、と感じました。

絵を描くことが好きだったのでデザイン科がある高校に入学し、イラストレーションを専攻できる大学への進学を志望しました。ある美大のオープンキャンパスに参加したときに、自分の作品を見た教授から「これでは美大への進学は無理だよ」と言われ、とてもショックで悔しくて落ち込みましたが、それでも絵を描く道を諦めませんでした。造形の基礎と共に子どもと芸術の関わりを学んで保育士資格を取得できる京都芸術大学こども芸術学科のことを知り、受験して進学しました。


就職活動の時期になって、それまで保育実習で苦労したことが頭に浮かんで、「自分は保育士としてやっていけるのだろうか」と不安になり、おもちゃメーカーや絵本出版など子どもに関連する一般企業にも応募しましたが、どれもうまくいきませんでした。自分の進むべき道が見つからず悩んでいました。

大学を卒業した後も自分の制作活動をしていきたいし、いつかは作家になりたいとも思っていましたが、親に学費を払ってもらっていたので、まずは就職して大学で学んだことを活かして社会経験をしっかりと積みたいという気持ちもありました。

そんな折に、しぜんの国保育園のことを思い出しました。実は1年生のときに、東香会理事長の齋藤紘良が大学で講演をしたことがあったのです。芸術を大切にしていることを感じ、東香会の理念に共感したことが印象に残っていました。
4年生の夏に開催された東香会の入職説明会と園見学に参加して、ここなら自分らしくやっていけるかもしれないと期待を抱き、採用試験を受けました。
採用試験で印象に残っているのは、「園内で気に入った場所の絵を描いてください」という課題。私は「この場で感じる自分の心の風景」として「緊張して縮こまっている自分」と「安心させてくれる言葉をかけてもらいほぐれていく自分」をテーマにした2枚の絵を描きました。
自己PRの時間には自分の作品をまとめたポートフォリオを持参しました。自分の作品について他の人に話すのは苦手で、面接官の前で緊張して言葉がうまく出ませんでしたが、後日、採用の知らせを受けました。

渋谷東しぜんの国こども園にアトリエを作る

入職後は、しぜんの国保育園に配属されました。園内には音楽室、図書室など、子どもたちがその日の気分に合わせて選べる保育室があり、私は保育をしながらアトリエ室で多くの時間を過ごしました。その後、渋谷東しぜんの国こども園の新設の際に理事長から「渋谷でもアトリエを作ろう」と声をかけてもらい2019年4月に異動しました。

しぜんの国保育園のアトリエは部屋として独立した空間でしたが、渋谷東しぜんの国こども園の園舎は横に50メートルほどの細長い建物で、園全体が壁で仕切られていないオープンな空間です。どうやったら場の特別感を出せるだろうかと工夫しました。


アトリエは園の真ん中あたりに作り、子どもが近くを通りかかり、友達が何か楽しいことをしていると感じ取って足を踏み入れれば、たくさんの魅力的な材料や道具にあふれている「出会いの場」のようなスペースにしました。こども園の中だけど日常とは違う、ちょっと異質な雰囲気があって、何かワクワクすることができる。そこには面白い大人(アトリエ担当の私)がいて、でも、子どもたちにとっては何かを教わる場ではない。興味がなければ来なくても構わないし、その日その時の気分で取り組めば良い。—それくらい生活の中に自然に溶け込んで敷居が低い方がアトリエとして理想的だと考えました。


今日のアトリエの奥のテーブルには男の子二人が並んで座って、アルミホイルで恐竜の骨格を作り色塗りに没頭していました。その隣には、女の子たちが色鉛筆で絵を描いていたのですが、いつの間にか、ロールプレイ遊びに変わっていました。 一人がアトリエで楽しそうに手を動かしていれば、自然とみんなが集まってきますし、アトリエの他に楽しいことがあればそこに行けば良い、という自由な雰囲気なので、アトリエが混み合っている時もあれば、ポツンと一人だけが集中して制作していることもあります。

子どもが真剣に取り組んでいる様子を見ると、大人の自分も影響されて、何かを作りたくなります。そして、私が夢中になって手を動かしていると、それを見た他の子どもも「何それ〜?」と一緒に参加し始めます。

子どもたちには技術はあえて教えずに、見て触って模倣してもらう方が良いと思っています。こうやって描くとか、この色を混ぜるとこんな色になるとか、一から説明したり教えることはせずに、その探求のプロセスを自分で楽しんでもらいたいです。道具の使い方も、ハサミで指を切らないようにするにはどう扱えば良いか、不注意で周囲の友達を怪我させないようにするには何に気をつければ良いかなど、安全に配慮しながら、子どもの主体性にできるだけ任せています。


新卒で入職した当初は、大学や実習で勉強した知識の範囲で保育とアトリエ活動に取り組んでいましたが、東香会の多様な保育者の進め方を見て、保育者がこういう行動をすると子どもたちはこんな反応になるのか、と学びながら経験を重ねてきました。

郊外と都会、それぞれの子どもの創造性

町田は自然の豊かさ、力強さゆえの、子どもたちのたくましさみたいなものが創造性のベースにありましたが、渋谷に異動して初めのころは、渋谷の子どもたちの創造性がおとなしい印象がありました。しかし、すぐに渋谷の子どもたちが持つ、力強さや発想の視点があることに気づかされました。

渋谷の街を子どもたちの視点で散策する「まち歩き」で、一人の子どもが自動販売機に興味を持ちました。メーカーの人が扉を開いて商品を追加する姿が面白かったようです。その子は、秋に開催される「こども美術館」で、自動販売機を作りたいと言いました。ダンボールで作るのかなと思っていたら、「自販機は鉄でしょ!」とどうやら本物を追求したいようです。そこで大きなアルミ板を2枚購入し、大人の背丈ほどの自販機を組み立てました。扉を開閉するための仕組みも金具を使いリアルさを追求しました。都会の子どもが毎日見ている景色から生まれた表現だと感じました。

「こども美術館」では、上手な絵を描いたり作品を作ることを目指しているのではなく、子どもたちが生活の中で興味を持ち感じたことを、自分なりの表現で伝えることを大切にしています。

忍者ごっこが園で流行った時期があり、A君は水遊び用のホースを武器にして、B君と遊んでいました。そのホースをA君は「こども美術館」に作品として展示し「B君を捕まえるホース」というタイトルがついていました。私はこの作品に度肝を抜かれました。まさに、現代アート表現です。「作品=形を作ること」という固定観念を持っていた私には、目から鱗の体験でした。


子どもたちはそれぞれ表現する方法が異なります。形を作ることに没頭する子もいれば、そうでない子もいます。それは自然なことです。アトリエ担当として、それぞれの子どもたちの創作への向き合い方に合わせて、彼らが感じたことやプロセスを伝えることの手助けをします。アートを学んできた視点から、保育生活をもっと面白くするアイデアを一緒に考え、そのことが子どもたちの表現力を高めることにつながれば嬉しいです。

園からは、アトリエ担当に「アートの先生」としての役割は求められていません。「のぶさん自身の視点をもって子どもたちの表現の幅を広げていってほしい」という方針を園長と共有しています。さらには「大人の保育者の表現も広げていってほしい」とも求められています。子どもたちと同様に保育者全員がアート表現を得意としているわけではありません。創造性豊かな保育を実現するために、私に相談してもらえば一人で考えるよりもう一歩進めることができるかもしれません。こうして芸術大学での経験値を周囲にも共有し、園全体の自発的な発展が実現できれば良いと考えています。


保護者から「のぶさんが子どもと一緒に絵を描いてくれたおかげで、絵を描くのが好きになりました」と言ってもらったことがあって嬉しかったです。子どもたちには、卒園しても「保育園のアトリエに、あんな面白い大人がいたな」と記憶の片隅において、創作をして楽しんだ感覚を思い出してもらえれば嬉しいです。


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