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small alley cafeを支える場づくりの思想と、そこを彩る音楽 ~クリエイティブユニット1011インタビュー~

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2019/10/01

渋谷東しぜんの国こども園の1Fに、園が運営するsmall alley cafe(スモール・アレー・カフェ)があります。全15席程度のこの小さなカフェは、2019年4月の開園と同時にオープンし、近隣で働く人や旅行中の外国人、園の保育士、在園の親子など、園と外の世界をつなぐハブとして多くの方に利用されています。BUTTERという多目的スペースも併設、2ヶ月に1度はトクマルシューゴさんのTonofonと音楽イベントを共催する他、展覧会や朝食会に貸し出すなど、“子どもと大人が文化に出会う場所”、というコンセプトで運営されています。

今回は、このカフェの選曲・選書を手がけるクリエイティブユニット、1011(イチ・ゼロ・イチ・イチ)にお話を聞きました。
*small alley cafeのプレイリストは毎月更新され、Spotifyでどなたでも聴くことができます。

1011は、齋藤紘良と安永哲郎によるクリエイティブユニット。

齋藤紘良(さいとう こうりょう)

子どもと大人が様々な関係性に囲まれ、育ち合える環境を考え、場や空間作りを行なっている。保育園では、森の循環システム「里山文化」を体現するプログラムや、芸術、食を基盤とした保育実践を、創作活動では、映像番組(Departures TV CANADA, The North Faceなど)への楽曲提供や、室内外の様々な場所での音楽ワークショップ、講演、他ジャンルのアーティストとのコラボレーションを行う。子どもと大人を文化でつなぐ季刊誌「BALLAD」のプロデュースや「齋藤紘良&ミラージュ楽団」、「まぽろし」などを主宰。現在までに、「Saturday Evening Post」名義で3枚のアルバム、ソロ名義で2枚のアルバム、「saitocno」として4冊の著書を発刊。和光高校非常勤講師。http://www.saitocno.com/

安永哲郎(やすなが てつろう)

エレクトロ・アコースティックユニット「minamo」の電子音奏者として活動を開始。音楽や美術にまつわる企画制作プロジェクト「安永哲郎事務室」を主宰。コンサートや展覧会などの企画制作をはじめ、編集や執筆、講演などの活動を続けている。2016年には外務省「日本ブランド発信事業」の採択を請け、南米にてレクチャーとワークショップを実施。原宿のショップ&カフェ「THINK OF THINGS」コンテンツディレクション。KAAT神奈川芸術劇場「キッズサマーパーティー」企画制作。NPO法人CANVASフェロー。社会福祉法人東香会理事。https://www.jimushitsu.com/



まずはじめに、1011(イチ・ゼロ・イチ・イチ)という名前の意味について教えてください。

安永:2人とも誕生日が10月11日だからです。そのことには前から気づいていて、僕は毎年誕生日がくると、紘良さんを思い出す、っていうのがしばらく続いていて 笑。ユニットをやるって決まった時、ネーミング何かないかな、と思っていたら、その話を聞いた家族から「1011」っていう言葉が返ってきたんです。腑に落ちたので、すぐに紘良さんに伝えたら、「正解!」って言われて決まりました。

1011は、クリエイティブユニットとのことですが、お2人それぞれの、個人としての活動は何がメインになりますか?

安永:どの活動がメインと決めるのは難しいですね…。個人の活動でいうと、原宿にあるショップ&カフェ「THINK  OF THINGS」のコンテンツディレクターとしてイベントの企画やお店の選曲などをしています。他にはミュージシャンの方の相談役として、ご本人がやりたいことを聞き、どうすればそれが叶うかを並走しながら形にしていく役割をしています。

活動全般に言えることとしては、“これが自分”という軸をひとつに定めるのではなく、あらゆるものに対して関係性をどう作っていくか考える、というスタンスです。ひとつひとつの活動ごとに線引きはなくて、どんどん境界が溶けていく方が面白いと思っているので、1011もそういったものの一つとして位置付けられるかなと思います。

紘良:僕もそうですね。色々なことをやっているので、そのときの状況で変わっていけると思っています。その時必要な時に必要なものを持ち寄るような感覚。コーヒーに例えるなら、ブラックで飲む時もあれば、カフェオレにする時もある。必ずミルクを混ぜる必要はないのと同じで、いつも同じユニットで活動する必要はないなと。楽器もそうですよね。このライブにはこの楽器、この編成、とか。

どのような経緯でユニットとして始動したのでしょうか。また、お2人の経歴からは、1人ずつ交代で選ぶ、といったこともできたのに、なぜユニットとして活動することになったのでしょう?

紘良:まず、small alley cafeを作る時に、開いた場所にしていきたいという思いがあって、一旦自分たちの自我を外側に置き去りにして、客観的にクリエイティブに関わっていくようなアプローチが必要だと考えたためですね。1つ別の自我として“ユニット”を作ったわけです。

あとは、自分以外に主体的な人がいると楽だから 笑。

安永:それは僕も同じですね。紘良さんと一緒にやると面白い。自分が「ここが面白いんだよ」とわざわざ説明しなくても、きっと楽しんでくれてるだろうな、と思える人と仕事すると健康でいられる 笑。紘良さんが選ぶものに対して「それはちょっと違うかな」っていうのはほとんど無いんです。自分が持っている引き出し以上の可能性が広がるみたいな。自分が引き出しを開けなくても、超いい引き出しがそこ(紘良さん)にある、っていう状態を楽しんでいます。

1ヶ月に1度本も音楽も入れ替えられるわけですが、選曲や選書の担当分けはありますか?

安永:明確な担当分けはないです。それぞれの目線で選ぶけど、個人的な趣味だけのものは置かないことが最低限のルールになっていますね。

紘良:選書にしても選曲にしても、その月の途中で曲や本が入れ替わる、ということも辞さないですね。僕の場合、1011としては、一旦選んだらその後のこだわりみたいなものは入れないようにしているのですが、その場では常に変化があるので、それを踏まえてもう1度客観的に見るようにしています。

“自分のフィルター”を通すことで、一人ひとりが“文化”になる

この場所のコンセプトは、“子どもと大人が文化に出会う場所”ということですが、都会にいると色々な形の“文化”に出会うと思うんです。ここならではの“文化”とは、何になるのでしょうか?大人が子どもに教える、ということですか?

紘良:例えるなら、“検閲の入っていないポジティブ感” 笑。本なら、グロテスクなものは置きたくないし、こちらが主体的に子どもにそういったものを渡すわけでも無いんですけど、「いくらポジティブな内容でも、子どもの近くには、このジャンルは置けない」、といった思い込みを持たずに投げ込んでいるというか。そこが他の場所とはちょっと違う。子どもの姿が見えていて、隣にあったら面白そうだな、という想像が湧いてくるものは、できるだけ素直に取り入れています。

安永:セレクトしたものとそれによって得られる結果はイコールではないと思います。とはいえ、選んでいるわけだから何らかの志向性は出てくる。ただ、この音楽が良いからみんなにも良いと思ってもらいたい、といった感情では選んでいないですね。そこで音楽に触れたことが、いつかその人にとって何かの情景を喚起させることになったらいいなあ、というぐらいの熱量で選んでいます。

紘良:人そのものが文化だと思うんですよ。でも、それが成立するのはなかなか難しくて。例えば流行っている音楽があって、子どもとそれに合わせて踊りました、という時、それはメディアがやることで。だけど、自分の中ですごく踊りを温めている人がいるとして、子どもと接する際に一緒にできることとしてパッと思いつくのが踊りだとする。その人が培ってきたものがあるわけですよね。自分のフィルターを通したものを出すと、その人なりのものが出てくる。実は自分で好きと思っていたものは、メディアから受け取ったままの状態で、いわばザルを通って出て行くのも多いと思う。そうではなくて、自分のフィルターを通して出せるかどうかが大事で。その点はsmall alley cafeもそうだし、こども園の職員たちにも出来るだけ伝えています。自分のフィルターを持てるようになると、そこにいる人たち自体が文化になって、あらゆる文化が集まっている状態になると思う。僕らも色んなものを自分の中で咀嚼して、そういう鍛錬はしてきている自信がある。そんな2人が子どもの隣にあるべきものを選んでいる、ということですかね。

small alley cafeの本棚。低い目線の本棚には絵本を中心に、上の方は大人が読んで面白い本も備えている。

その場にいる人こそが主体となる選曲のプロセス

今日はとくに、音楽について伺いたいですのですが、毎月選出している音楽のテーマについて教えてください。

紘良:毎月の保育のキーワードから連想するものです。あとは、海外からの保育園への見学者が来た時は、記念にその人たちの国の音楽から選ぶとか、割とそういう個人の体験からパブリックにしていくこともあります。何かの縁だと思って。この季節でこの曲がこの場所で流れていたら落ち着けるかな、とか想像しています。

プロセスを詳しく教えてください。1人ずつ選んだ曲を、最終的にどういった形でリストとしてまとめていくのでしょうか?

紘良:毎月のキーワードやテーマを手がかりに、お互いにリストにどんどん曲を入れていく。

安永:僕はそれを聴いてみて、あ、紘良さんこう来るんだ、じゃあこれ入れよう、とゲームみたいな感覚で選んでますね。対話をする感覚。全体のバランスを見てリストを成立させるというよりも、例えばある方向性に寄せた選曲を続けたあとに、ある時点でふと違う方向を向いてみる、という意識で選曲していくと、全体に多様性が生まれるし、自分たち自身が聴いていても飽きない。その月の中でも、カフェの店長から「この曲がよかった」といったフィードバックがあると、じゃあ今度はまた別の方向でもっと驚かせようとか、「なるほど!」と感じてもらおうとか、それを繰り返していく感じですね。

時間がかかりそうですね…。

安永:自己鍛錬ですね 笑。面白いですけど。

紘良:リストの音楽は自分でも普段結構聴いてますね。

選曲の作業はどこでしていますか?

安永:僕は移動中が多いですね。その間にスマートフォンで集中してやってます。

紘良:僕は家ですね。WiFiがあって落ち着いて聴ける場所があればどこでもいいんですが。

それぞれのおすすめの3曲がカフェで毎月展示されていますが、9月に選んだ曲で、特に紹介したいものについて具体的に教えていただけますか?

紘良Lisa Loeb & Elizabeth Mitchellの『Catch the moon』
月というキーワードと、エリザベスがお寺*で演奏してくれたというご縁もあって。
*社会福祉法人東香会の母体となっている町田の簗田寺。境内で海外アーティストを招き、ライブを行うことがある。

安永「けもの」の『トラベラーズソング』
日本語で歌われているのに、考えごとや作業を邪魔しない曲を探すことが最近のテーマです。個人的にも大好きなアーティストの方なんですけど、人の心に踏み込み過ぎないキワを攻めている感じがカフェのBGMになった時に面白いのではないかと思っています。

音楽の聴き方や出会い方は昔と変化していると思うのですが、音楽に詳しいお2人は最近どうやって新しい音楽に出会っていますか?

紘良:プレイリストですね。選んでいる時に、この人いいじゃん、て。

安永:僕もです。サービス側からのレコメンドは重要視してます。(Spotifyが)毎週更新してくれる「My Discover Weekly」というレコメンド専用のプレイリストがあるんですが、それはすごく気にしてチェックしています。よくできたアルゴリズムで、これが欲しかったと感じる音楽を出してくれる。もちろんそれだけに頼るのは避けていますが。

紘良:レコメンドと似ているかもしれませんが、関連アーティストの“いいとも形式”で探しますね。今まで聴いてきたものもあるから、そこから入るっていうのもある。

安永:そうですね。20年前聴いていたものを今聴き直してそこから広げるというのもありますね。

紘良:ふと自分の知らない曲を入れることに躍起になっちゃってて。有名な曲でも、あ、この曲かかるんだ、というときありますよね?スーパーで有名な曲が流れるとか。

安永:西友はいいよね 笑

紘良:そうそう、はっ!て嬉しくなってしまうときがあるから、外さずに有名な曲を入れることがあります。

安永:それはありますね。特定の誰かに深く刺さってほしいなと思って、意図して「誰か気づいて!」と思って入れる曲もあります。

紘良:その感覚はDJに似ているかもしれないですね。

今いろんな人がDJをしたり、簡単にプレイリストを作ることもできると思うんですが、人に聴かせるための「選曲」に必要なことって何ですか?

安永:場所ごとのコンセプトや状況によると思うけど、カフェのような環境ではそこにいる人の思考を邪魔しないことですかね。ご飯を食べに入ったお店が無音だと、「この店、できるな」と思います。換気扇の音だけが響いていて、大抵おじいちゃん、おばあちゃんのお店なんだけど。究極はその空間の佇まいだけで、食事に集中できたり、物思いに耽ったりできるのが理想。場所の世界観を作っていく時、一方的なメッセージを伝えるのではなく、風が吹くみたいに、その人にとってインスパイアリングなものになれるのがちょうどいい。そこがもっとも絶妙な加減を必要とするところです。そうは言っても、どんな人がお店に来るのかはわからないので、1つの拠り所としているのがカフェの店長です。彼女が気持ちよく仕事ができるとか、いい表情をしているかどうか、といったことを常に考えていますね。

紘良:そうですね。主体はその場にいる人たちだから、例えば5時間しかプレイリストがないとちょっと焦る。その場にいる人たちがずっと自然に聴いていられるように意識してます。

カフェ併設のスペースBUTTERについて

BUTTERではミチバタ音楽会を定期的に開催して、親子で毎回参加してくださる方もいらっしゃいますね。Tonofonさんと開催することになった経緯を教えてください。

紘良:こういうの一緒にやりたいね、というのは昔からずっとあって、園ができるタイミングで話が具体化したという感じですね。

音楽を聴いている人がいる一方で、外では子どもがおもちゃ釣りをしたり、お店で買ったものを食べたり、おもいおもいに過ごしていますよね。

紘良:そうですね。

すでに5回の音楽会を行なっていますが、出演者はどのように決定しているのですか?

紘良:これは安永さんとは一緒にやっているけど、1011としての活動ではないので、Tonofonさん交え、繋がりのある人たちの中から声をかける感じです。

安永:そうですね。MICHIBATA KIDSはTonofonとBUTTERの場所で、お客さんの顔も違うので、そこを踏まえて活動していますね。

butter カフェに併設されたスペースBUTTER。スクリーンやステージセットも完備。

BUTTERでは今後、どんな活動やイベントが行われるのでしょうか?

安永:BUTTERの空間に個性や彩りを添えることはもっとやっていきたいですね。クリエイティブユニットkvinaさんとの朝食会などのイベントもやっていきます。

紘良:機能的に必要になってくるものを自分たちらしい形で作っていく予定です。この場所のコンセプトに共感いただける組織と一緒にコラボ企画などもできると良いですね。定期的にイベントを開催したいというところからもお声かけいただいています。僕たちとしても、単発よりは、そうやって長くお付き合いできるような方々とご一緒できるといいなと思っています。

今後1011としては何がやってみたいですか?

紘良:small alley cafeやBUTTER以外の空間とか選曲はやってみたいですね。その場で何ができるかみたいなところから考えていきたい。

安永:カフェだったら空間と人の関係性というように、あるコンテクストをよりどころに情報を選ぶことをおもしろいと思ってくれる人が増えたら嬉しいなと思います。その考え方でちょっと本屋に行ってみようとか、音楽を選ぶとか。今日の前半でお話したようなことをもっと発信していった方がいいのかな、と今日のインタビューで感じました。

紘良:確かにね。若い時には意外と考えられないかもしれない。

安永:small alley cafeに来てくれた人たちが、また1011なりの選曲や選書に関心をもって、それぞれの視点でも選んでみるといった形でバトンが繋がっていったらいいなあと思います。

音楽談義編に続く–>