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子どもを通して世界を見ること、保育を真剣に語る社会を目指していくこと スコラ・ルームに向けて理事長インタビュー:後編

event, Koryo, schola-garden

2025/05/26

2025年5月30日(金)トーク&ライヴ主体のミニセミナー『schola room(スコラ・ルーム)』の開催にちなみ、本企画のプロデューサーで東香会理事長の齋藤紘良に行ったインタビューの後編。今回は「いろいろな視点で保育を考えることの必要性」や昨年発売の『園外・まち保育が最高に面白くなる本』からのお話をお届けします。

前編はこちら

ファッションを熱く語るように、真剣に子どものことを語る場をめざす

保育を通して世界を見るということは、子どもを感じる一つの目線でしかなくて、他にもいろんな目線があると思うんですよね。音楽や自然を通してとか、その一つとして保育を通して子どもを感じるという視点がある。保育者たちが、保育を通した時にこんな面白い世界があるんだよと語るのはいいのですが、保育界隈では、保育者たちが”保育の世界こそが子どもにとって大切”と盛り上がりすぎてしまうことがある。そうすると他のジャンルの人たちはちょっとついていけなくなってしまう。 保育者が知る面白い子どもの世界も含めて、”こんな視点もある”という仲介者的役割をスコライベントが担えたら良いなと思います。こんな視点もあるという紹介をしていく仲介者になりたいんです。

ー 仲介者になることで、どのように社会が変わっていきそうですか?
社会の中でいろいろな分野が真剣に語られているのと同じように、保育も真剣にみんなで考えて、社会の中で受け取られて評価される分野にしていきたい。最近のニュースで取り上げられる保育の話題を見ても、保育は閉鎖感があって、社会の中で真剣に考えられてない面があると思っています。 例えば、補助金。保育に対する補助金があまりにも低いことをずっと訴えています。訴えるときにヒートアップして「保育ってこんなに素晴らしい」とか「子どもって大事」という言い方を保育者側からしてしまうことがあるけれど、それを保育者以外の人たちが「子どもたちと社会を作るとこんなに面白いことが起きる」と受け止めてくれることが理想です。 社会の中で保育が語られるときはだいたい「保育士さんたちが頑張っていて素晴らしいね」「大変な仕事だよね」で終わってしまう。 例えばファッションを熱く語る人って多いけれど、それはやっぱり自分が普段身につけていて生活に欠かせないものだから、熱く話をされてもすごくこだわって暮らしていることに共感できる。 それと同じように子どものことを語ってほしいなと思う。語りたいし、別に身近に子どもがいなくても「子どもがこういう存在だとより社会が豊かになるんじゃないか」とか「自分の生活がこう変わるんじゃないか」といったことを真剣に語れる場として、スコラ・ルームやスコラ・ガーデンを作っていきたいです。

ー 会場は渋谷東しぜんの国こども園の1階にある子育てスペース「BUTTER(バター)」ですが、保育施設の中に入るという体験も貴重ですね。
BUTTERは、元々は子育てひろばというよりもイベントとして様々な人が集まる場として設計しました。しかしコロナ禍もあり、イベントを開催するのが難しくなって、子育て支援スペースとして落ち着きました。 保育園やこども園でイベントをやることで、普段保育園に入ったことがない人でも入れる機会を作りたかった。溶けて混ざり合うという意味でBUTTERと名付けました。 あとは井戸端(イドバタ)会議の”バター”。井戸=カフェ(BUTTERに併設されている公益サロンsmall alley cafe)、バター=もう一つの場で、”井戸バター”っていうのを考えついて、そこでカフェと併設し未就学児支援スペースにしたという経緯があります。 コロナ禍を経てイベントが再開したけれど、イベントの時だけイベントスペースの設えにするとかガラッと変えなくてもいい、むしろ園に遊びに来るような気持ちで来てもらえたらと思い、今の形になりました。 初期の企画書にはBUTTERにラジオステーションを作る案もあって、生放送のラジオで、毎日子どもたちがパーソナリティとして当番制で出演するとか、子ども発信のPodcastやるといったことを考えたりしていました。保育側から外に向けて発信する方法をBUTTERで考えていたので、その企画を発展させて、スコラ・ルームを開催しています。

ー 普段、保育施設は暗証番号がないと入れない場所ですよね
今はセキュリティの観点から外部の人を入らせないということが先行していますが、本来は入らせないことが大事なのではなくて、ふさわしくない人、つまり子どもに危害を与える人やことが入れないようにすることが大事です。それを保つことができれば、閉め切る必要は全くないんです。 開け広げたいというところから始めたいし、そこに立ち戻らないといけないと思います。不審者排除のリスクヘッジから、いろんな人たちと出会うことがぶった切られてしまう。出会えないということは子どもにとって大きな損失だと思うけど、その損失を保証する人は誰なんだろう、というのを自分の立場で考えているんです。

ー 保育をまちにひらく、というところで『園外・まち保育が最高に面白くなる本』で執筆をされていましたね

書籍『園外・まち保育が最高に面白くなる本』(風鳴舎)では、東香会のいろいろな活動の紹介を通して、どうやって門を開けていこうかという模索を提示しています。スコラ・ガーデンやスコラ・ルームも一つの門を開けるように呼び込んでいますね。こっちの水は美味しいよって。

ー 『園外・まち保育が最高に面白くなる本』の中の「まちこさんを探して」*の事例が興味深く、実際に探してみようと舵を切れる保育者がすごいなと感じました

*偶然流れた行方不明者の「まちこさん」の市内放送から、人探しを軸にまち歩きをおこなった事例

そこで子どもたちとともに探す方に乗っかれるかどうかが保育者としては分かれ道になっていると思います。やっぱり乗っかれる方が圧倒的に面白いことが起きるんですよ。どういうことかというと、まだ出会ってないことに出会えるんです。 さっきも子どもたちと音遊びをしてきたんですけど、2チームに分かれてやる時に、僕自身片方のチームで1回目をやって、もう片方のチームでまた同じプログラムをやることが僕自身すごくつまらなく感じてしまう瞬間があって。そうなると自分自身がどんどん流れから逸脱しようとしていくんです。逸脱することで新たな自分自身の価値観に出会えるのは子どもも一緒だし、人類に共通する部分だと思うんですよね。 その逸脱の仕方を研究していくのが遊びで、それを通して秩序からどうやって抜け出していくかを知っていくんだと思います。 その秩序から一瞬抜け出したときに、恐れはあっても「楽しい」「ちょっとワクワクするな」というところにいける人が保育を長く続けられるのではないでしょうか。 ルーティンが決まっていると楽だし、自分が予想していた通りに物事が進むという快感もある。しかし、保育現場に長く立ってベテランになってくると、視野が広くなって細かいことに気づきすぎてしまい、すべて段取り通りにしようとすると辛くなってくる部分がある。例えば、まだ遊んでるから食事の時間に間に合わないとか、いま昼寝しないと起きるのが遅くなって夕方の保育に影響が出るとか、どんどん予測が立ちすぎてしまう。 それを、いま目の前で起きていることに対して、ある程度面白がったりとか「まあいいや」「そっちに乗っかってみよう」ということができると、何年保育をやっていても新しい発見があるし、常に新鮮な気持ちで保育ができると思います。 これは僕が考えたことではなくて、先人の哲学者たちが70年代〜80年代に考えていたことを保育に当てはめたという感じです。いろんなものを手に持って歩いていく人生よりも、手放しながらその場で起きることに順応していく人生の方がより豊かである、ということをツリー型とリゾーム型という形でフランスの哲学者たちが提示しています。

音遊び:オトキャッチを通して

ー先ほど音遊びの話がでました。「オトキャッチ」というネーミングですが、どんなものでしょうか?
いわゆる‟音楽教育”をひっくり返すような活動です。音楽教育というのは楽典に沿って積み上げた音楽の授業が主流ですが、大切なことはそこではなくて、音の楽しみ方が世界にはたくさんあるということを子どもと一緒に楽しむというプログラムが「オトキャッチ」です。 今日は部屋中の音を探すという内容で、子どもたちに”魔法の杖”を手渡していろいろな音を発見しました。 大人も子どもも、木片を叩くと一つひとつの音の違いに気づくのは難しい。でもそれぞれの違いに気づき、音に意識を向けていくことで世界が広がるんですよね。日常の中にあった音の多様性に気づけると、世界の楽しみ方のジャンルが一つ増えるんです。 オトキャッチをやった後、すぐ子どもたちが僕のところへやってきて「あの音が良かった」「〇〇の音はこんなだった」と話してくれます。 音という常に起こり続けていることにあらためて気づき、「世界を広げることは楽しいんだ」ということを知るきっかけになるといいなと思います。

ー 音楽や音へのこだわりを感じます
一人ひとりのこだわりは突き詰めると普遍的なものにつながると思っています。自分はこれしかできないという、それぞれのこだわりを出し合っていったら、めちゃくちゃ面白い集団になれるんじゃないかなと思っています。
最近ハマっているというタブレットを用いた即興演奏を披露

どうして人々は子どもに惹かれるのか:SNSの投稿からみる子ども

ー 保育者以外の方が身近に目にする子どもの姿の一つに、SNSの投稿があるのではと思います。ちょっとした言い間違いや、よちよち歩いてる姿が人々に癒しを与えているのかな思いますが、あらためて考えるとなぜだろうと疑問に思います。紘良さんの目線からはいかがでしょうか?
どうしてでしょう…?僕もそのような投稿を見て、考えるより先に「可愛いな」と感覚的に感じることはあります。もしかしたら小さい子どもたちの行動のすべてに目的や趣旨が備わっているということを感じられるからかもしれません。 例えば、手を伸ばしてお茶を飲むというこの動作は僕らは簡単にできるけど、小さい子たちはできないかもしれない。頑張って両手で持ってゆっくり飲めた!みたいなことが、可愛いなと思う。 この可愛らしさは自分に対しても向けている感情なのかなと思っています。他者としての子どもに対して可愛いと感じると同時に、自分自身もそこに吸い込まれて、自分に対しても可愛いという感情を抱いているのかもしれません。 子どもの姿や行動を完全に別のものとして客観視しておらず、見ている自分が一瞬でも子どもと同一化されて可愛いと思えるのではないか。草木についても、若葉や新芽が必死に土から出ようとしている様子を見て、その必死さに健気さを感じることがあるのは、自身の経験と重なって、一瞬でもその若葉に自分が成りきっているのはないか。 これは仏教的な言い方をすると「自他未分」や「渾然一体」とか、そういった言葉で表されています。「自分以外のものが自分と同一化されていく」、それぞれが主も客もない状態のことを指します。 これが自分とは全く関係ないと思ったときに、途端に全く可愛いと思えなくなる。例えば、戦争が起こっていて相手に対してこの感覚がないと、あんなに憎いやつらの子どもは殺してしまえということになってしまう。自分の感情を同一化させる作用が全く働かなくなってしまうのです。

ー 『園外・まち保育が最高に面白くなる本』にも出てくる「どんど焼き」の事例の話が思い浮かびました。「どんど焼きはできないのかな」という子どもの不安そうな姿を見て、大人たちが「よしやるぞ」と動く姿が記されています。これも自分と子どもとの一体化を感じますね。
もし自分が子どもの頃に同じことが起きていたら、「やってほしかったな」と感じると思います。僕もその時周りにいた人たちも、子どもと目線が合った瞬間があったから 「どんど焼きをやろう」という気持ちになりましたが、その感覚がない人から見ると「危ないからやめろよ」と感じる。 でも普段から子どもと一緒にいて、同一視する感覚があると簡単に相手に入りやすい。子どもが不安そうにどんど焼きを見ている目線に大人も吸い込まれていく。最近思うのは、吸い込まれたとき、精神的に重なると「自他未分」になって「どうしようか」と大人の世界観で判断するのではなく、子どもも一緒になって判断していくようになるのです。 だから、別に言葉で子どもの意見を聞くことだけが子どもとともに決めるということじゃないんですよね。子どもたちが見ている世界に吸い込まれているときにどのように自分が判断できるかということが大事です。子どもたちのことを可愛いと思えるのは、自分自身が可愛いと思われていた時代があるから。その瞬間にハッと自分自身の中の子どもの頃の感覚が生まれ変わるというか、一体になるんじゃないかな。

ー 初心に戻る感覚ですね。WORKSIGHTの中に「ウブ」という言葉が出てきて「ウブ」とタイピングしたら変換で「初心」と出てきました。ウブに戻る感覚でしょうか。
改めて話していると整理されてきました。つまり初心を通して共有感覚を得るということだったんですよね。 だから、初心(ウブ)な姿を見て、そこを通じてつながり合う。それでやっぱり尊いものに感じるのだと思います。


スコラ・ルーム#3はWORKSIGHT第26号「こどもたち」を軸にトークを展開予定です。“異界の住人”たる子どもと彼らを取り巻く社会の変遷をひも解きながら、子どもとともにある社会のこれからについて思いを巡らせていきます。ぜひご参加ください!

schola room(スコラ・ルーム)#03

– TALK
『「小さきもの」の人類学とは?- 〜WORKSIGHT 26号 『こどもたち』から読み解く〜』

山下 正太郎(WORKSIGHT 編集長)+ 齋藤 紘良(社会福祉法人東香会 理事長)

– LIVE
井手 健介

日時:
2025年5月30日(金)18:30開場 / 19:00開演(21:30終演予定)

会場:
BUTTER
渋谷東しぜんの国こども園 small alley 1階
東京都渋谷区東1-29-1 GoogleMap
(JR「渋谷駅」新南改札、東急・東京メトロ「渋谷駅」C2出口より徒歩約10分)

料金:
3,000円+1ドリンクオーダー

チケット:peatixよりお申し込みください

イベント情報:
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