子どもの視点から社会を考えてみる、 体験と対話のイベント型・自由研究セミナー「スコラガーデン」開催レポート
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2024/06/11
社会福祉法人東香会ではさまざまな専門家と保育者たちが子育てを語る保育の自由研究セミナー「スコラガーデン」を2024年3月9日、渋谷東しぜんの国こども園で開催しました。さまざまなテーマで保育者とゲストのトークセッションや、個性豊かな食やライフスタイル雑貨などのポップアップショップの出店、音楽ライブなど、日常の保育施設とは違った賑わいや反応が生まれました。
この記事では、実践発表「道草を食ってみたら… – 私たちのまち歩き記録 -」の様子をお届けします。イベント当日に参加者の皆さんと一緒にまち歩きワークショップを開催し、園に到着してまち歩きの実践発表が行われました。
園庭がない渋谷東しぜんの国こども園が行う「まち歩き」道草の途中で空想と現実がまざり合う瞬間に出会う
名古屋彩佳(渋谷東しぜんの国こども園 園長):
渋谷東しぜんの国保育園には、園庭がありません。それならば、渋谷の街全体を園庭としようという考えのもと、2018年開園時から賑やかな渋谷に繰り出し、子どもたちと保育者でまち歩きを行ってきました。
園庭がないということは、遊べる範囲が狭いとか、どこで遊ぶのか、どうやって体を動かして過ごすのかなど、保育業界の中ではネガティヴに捉えられがちですが、このネガティブな部分をポジティブに捉えてみようと、私たちは一歩踏み出し、まち歩きを始めました。
まち歩きは、渋谷を全て園庭と捉えて、街で遊ぼうという試みです。まずは子どもたちが足を止めたら私たち保育者も足を止める、ということからまち歩きをスタートしました。当時私は2歳クラス担当だったのですが、園舎から一歩外に出た瞬間に子どもが立ち止まる。いざ行ってみようとしても全然進まないということが何度もありました。でも、これこそがまち歩きだと思って、子どもたちとまち歩きを楽しんでいます。
まち歩きを始めた経緯は、東香会理事長である齋藤紘良が「園庭がなければ、子どもは豊かな感性を本当に経験できないのだろうか」ということを問い直して、園庭という既成概念を一旦解体し、むしろ街全体を園庭と再解釈することで、保育における新たな感受環境が構築できるのではないかというところで生まれました。
道草をくってみよう
名古屋:
「道草をくう」という意味は、目的地にそのまま向かわず、途中で寄り道をしたり他のことに時間を費やしたりすることです。子どもたちが足を止めたら保育者も一緒に止まって、寄り道をしてそこからまち歩きが始まっていきます。
これは5歳の子たちが塀によじ登って誰が一番にたどり着けるかを競っていたり、地下鉄の東横線近くのギザギザの壁を楽しんでいる様子です。今日渋谷駅からここまで歩いてきた方は目がいかないのではないかなと思います。こういった壁も子どもたちには遊び場に見えているのかもしれません。
子どもたちとまち歩きをしていると、普段気づかなかった体感・性質・事象など、さまざまなことが起きます。
こんな風にまち歩きを重ねてきたのですが、今年はまち歩きを5つのチームに分け、石チーム、キラキラチーム、虫チーム、乗り物チーム、妖怪チームが発足されました。これは子どもたちが日頃興味を向けているものを保育者がピックアップしてみたものです。
今日はキラキラチーム担当みさきさんと、石チーム担当なごみさんにエピソードを話してもらおうと思います。
渋谷でキラキラを探し求め、街の中で感じられる自然と出会う
みさき(渋谷東しぜんの国こども園 保育者):
キラキラチームのはじまりは、日々過ごす中で地面と向き合っている子どもたちがたくさんいて、何してるんだろう?と思って見ていたら誰かが落としていったスパンコールの粒を大切そうに拾っているわけです。それを見たときに「キラキラ」にときめく何かがある!と感じキラキラチームが発足しました。
園内でも毎日「まだキラキラがあるかもしれない」とキラキラを探す子どもたちがいて、渋谷の街にもいろんなキラキラが落ちているかもしれないということで街に繰り出しました。
「ママがたくさん本物の宝石を持っているから、それを皆で見にいきたい」と本物の宝石に興味を持つ子たちがいて、渋谷の街に出て、渋谷スクランブルスクエア(大型複合施設)で子どもたちの思うキラキラしたお店を巡ってみました。
まち歩き中に喉が渇いたと渋谷ストリーム(大型複合施設)の大階段に座ってお茶を飲んでいる子がいました。階段に腰掛けて何気なく周りをみていたら、キランと何かが反射したように光った瞬間、「あ!映画がはじまった!」とある子が言いました。それはエスカレーターの天井が鏡になっていて、青信号になると下に走っている車が鏡に映って動いて映像みたいに見えるというものでした。それを他の皆も見つけて「映画だ映画だー!」と盛り上がりました。
これは、夏が近かった日に、強めの太陽の光がシルバーの点字ブロックに当たっていた様子に「銀のキラキラみつけたー!」と言う子がいましたが、隣の男の子は「いや、黄色のキラキラだ!」と言うのです。そこで見ている場所でキラキラの色が違うことに気がつき、太陽の元では角度によって色の見え方が変わることに気がついて皆で驚きました。これまで宝石や街のディスプレイ等を色々みてきましたたが、子どもたちは何となく「光」「照明」「太陽の光」で光っているものを探す気持ち強くなっていきました。
夏には、水や霧吹きなどの身体を冷やすアイテムを持って歩き、ある場面で霧吹きを使ったところ、子どもたちが「虹みつかった!」と、太陽の光に霧吹きが重なって虹ができているのを見つけました。それからは光を作れるような色々なアイテムをさらに多く持って歩くようになりました。
ある日のまち歩きでは、公園に立ち寄り、暑かったこともあり水遊びをはじめました。一人の子が水に入ったコップを見て「みてみて!手の上にキラキラきたー!」と言いました。皆がなになにー?と集まり、水を入れた透明なカップの下に手を当てると、太陽の光が差して水が揺れるたびに手の上の光が揺れていました。「キラキラ(光)が手の上にきた!」という表現、一斉にその現象に子どもたちがのめり込んでいく集中力や目の輝きがものすごくて、私の固定概念が覆されました。
これまでキラキラを追って渋谷という都会でまち歩きをしていたので「キラキラ=人工的なもの」をイメージしていましたが、子どもたちの中では「キラキラ」は概念で決められたものではなく、たまたま探していたら色々な「キラキラ」に出会って、都会とか自然とか関係なく、また形があるわけでもありませんでした。ただ「キラキラを探そう」という視点だけを持ちながら、キラキラした現象に出会い皆が自由に心をときめかせていく様子はとても良いなぁと思いました。
名古屋:
キラキラチームは、はじめは宝石などに興味を持っていて、これからどんなふうにまち歩きが広がっていくんだろうと思ってみていたのですが、関心が太陽の光にいくとは思いませんでした。こんな大都会でこれだけ太陽を感じて遊ぶという発想は私にはなかったので、子どもたちが「キラキラ」を通してこんなに太陽を感じていたことに驚きや発見がありました。
渋谷という大都会での石探し
なごみ(渋谷東しぜんの国こども園 保育者):
子どもたちにとって「石」はとても魅力的なものです。どこかで見つけた石をとても大事そうに握りしめて園に帰ってきます。子どもたちの頭の中で「石」は、時に生き物になったり、ごっこ遊びの食べ物になったりするようです。
初めは、渋谷は人工的な石が多くて子どもたちは楽しめないんじゃないかと心配していました。
そんなある時、トンカチを持って出かけて、道端で拾った石を割ってみる事にしました。中がキラキラしているのを発見したことから街歩きが盛り上がっていきます。渋谷東には意外と空き地もあるので、そこで石を探してみることにしました。すると1人の子が原っぱの中で貝殻を見つけます。この土地は大昔は海だったのかな?となんでもない空き地からイメージが膨らんでいきます。初めは化石や宝石を探したくてまち歩きに行くのですが、この石とこの石で組み合わせれば恐竜の形になるかもしれない、恐竜っぽいねと言ってみたり、黒光りした石はマグマの石と言って並べたりしました。
そんな中、今日は行ったことのない道にいってみようと青山方面に行ってみたところ、整った道が多かったため石が全く落ちていませんでした。どうしようと思っていたら、子どもたちが車が入れないような路地を見つけて、その入り口付近に石を発見。子どもたちはその石がキラキラする石ということを既にわかっていて、早速トンカチで石を割ると「やっぱりキラキラしてた石だ!」となりました。その後も白い石を発見すると「これは地面に書けるんだよ」と石の特性を教えてくれたりもします。
その後、広場に出て石を探していたとき、「みてみて!なごみさん、黒曜石があった!これは黒曜石だ。これは石チームの今の実力だ!!」と自信満々に言う子がいました。本当に黒曜石かどうかはわからないけれど、今まで色々と探してきて見つけた石がたくさんあって、特別な黒曜石が見つかった。偶然ではあるけれど、私たちが毎日まち歩きで石を探し続けてレベルをあげたから黒曜石が見つかった、という満足感がその言葉から伝わってきました。
名古屋:
このエピソードをなごみさんから聞いたときに、黒曜石の価値がわからなくて「なぜ黒曜石がレベル高いの?」となごみさんに聞いたところ、ちゃんと理由がありました。
なごみ:
その頃、マインクラフトというゲーム(フィールドの中で、建築をしたりモンスターを討伐したりする。略称「マイクラ」)が子どもたちの間で流行っていました。マイクラで建築用に使う資材のようなブロックが保育園にあるブロックと似ていて、子どもたちはマイクラのブロックに見立てて遊んでいました。水色がスポンジ、グレーがコンクリートとかゲームと同じ設定にしていて、ブロックを交換したり時には取り合いになるくらいでした。
中でも黒のブロックはゲーム上の設定で黒曜石というとてもレアなアイテム。園ではロッカーの中に隠し持ったりするくらいのお宝です。そんな中、まち歩きをしながら現実世界で黒曜石のような石を発見したのです。
私も小学生のときに普段歩いている道がイメージしている魔女の世界になって、草がステッキになったり、秘密基地を探しに自転車で走るとか、身体が覚えていて、そんなことあったなぁと自分のことを思い返しました。自分の空想の世界と現実世界が混ざり合うことで普段見ている街がこんなにも魅力的になるんだなと思いました。
名古屋:
まさかゲームの世界と日常のまち歩きがつながっているとは思っていませんでした。私はゲームが得意ではないのでポジティブに捉えられないことが多かったのですが、最近ゲーム実況をYouTubeで見ると面白くて。子どもたちの頭の中でゲームの世界が現実の街の中にも広がっているのは面白いなぁと思いました。
自分と街との「間」を図りながら、ワクワクと心地よさが混在する場を探し続ける
名古屋:
こんなふうにsmall alleyでは子どもたちとまち歩きを重ねていて、本当にさまざまな出会いが街の中にあります。子どもたちと一緒にいると、何も考えず歩いている道が別の世界に入ったような感覚になったり、子どもが一緒にいたらこの道はこう思うのかなとか、あ、ここ一輪だけ花が咲いてるとか、バイクのカバーが風でふわ〜と浮かんでいて面白いなぁとか、そんなことを思いながら今日のワークショップでも歩きました。
まち歩きをしていると、いろんな大人によく声をかけられます。面白いことしているねと言う人も、ここはやめてくれとか走ると危ないよと言う人もいます。この近くでもある建物の周りをグルグルできることを発見して、子どもたちがずっと建物の周りをグルグル回っていたら「ここは、僕たちのところだから」と言われたことがありました。
街を歩くのはやはり私たちも緊張するし、怒られたくないなという思いもあるんですが、園庭にないけど街にあるものの素晴らしさがあるなと感じています。
特に渋谷は色々な専門店があって、すぐにプロの人たちと出会えます。ドレスを作りたいとドレス屋さんに行ったり、カレー作りたいとカレー屋さんに行ったり、それは本当に渋谷ならではだと思っています。
街には園の所有物ではないものがたくさんあり、見ず知らずの人がいるということがすごく面白いなと思っていて。保育園の園庭の遊具だと壊れたら園で直すし、ある程度許容範囲の中で子どもたちは遊んでいると思うんですけど、所有物でないものがあることによって、子どもたちは色んなことを気にしながら歩くんですよね。それで注意された経験もあって。
でもよくよく考えてみると自分が住んでいた街で、小学校からの帰り道、あそこの犬はよく吠えるからそこを通らないで帰ろうとか、あの道はお母さんから本当は通っちゃいけないと言われているけど、行ってみたくなって行ってみるとか、そういうことが街の中にあったような気がして、保育園の園庭は守られている範囲だと思うんですが、街の中にいると自分と街の中に「間」を築きあげているんだというのを、子どもたちとのまち歩きからもう一回思い起こして、自分なりに向き合おうをしています。
犬が苦手な人は犬に吠えられるのが怖いから遠回りするけど、そうではない人にとっては、犬が吠えるのは楽しい場所です。自分の好きとか苦手とかを自分なりに間をみながら街の中で遊び、過ごし、生きていく、そういうことがまち歩きの中で行われています。
まち歩きは、街が面白く見えてきて、冒険のような醍醐味があると思っています。そうするとこの街に愛着が生まれて、この街が自分の街になっていく、ここなら大丈夫、ここなら使っていいとか、誰にも怒られないとか、そんな風に自分が距離を縮めたり離れたりして自分の街になっていくんじゃないかなと思っています。
当日の「スコラ・ガーデン」の様子は、Instagramのハイライトにまとまっています。ぜひご覧ください。
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