しぜんの国で働くということ 保育士の石上さんインタビュー
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2019/08/13
4月に開園した上町しぜんの国保育園で働く、ちょんまげがトレードマークの石上さん。そのいでたちから、石上さんの職業を知ると意外に思われる人も多いかもしれません。以前は小学校教諭だったという経歴を持ち、保育に関わるプロが保育について語り合う「保育語りbar」の代表も務めています。
石上さんってどんな人?
今はまっていることを教えてください。
農業です。家庭菜園をやっています。庭に畝を作って、その時期の野菜を育てているんですが、同時に雑草も愛でています 笑。今育てているのはプチトマトとネギ。でも、勝手に種が飛んできて、いつの間にかミントが出てきたり、去年は実らなかったイチゴが今年になって実っていたり。ちょっと前は1個だけだったのが、どんどん増えて、今はプランター3つ分に増えました。偶然出てきた雑草を観察しながら育てていると、本当に単なる雑草になることもあるし、実がなることもある。ドクダミみたいな雑草もお茶になるし、面白いんです。
好きな音楽を教えてください。
邦楽の方が好きで、最近はブルーハーツや忌野清志郎を聴いています。歌詞がストレートで、昔作られたはずなのに今でも通用するメッセージがあります。そういうストレートさが好きで。清志郎さんはリアルタイムでは聴いていなかったのに、YouTubeがきっかけで色々聴くようになって、政治のことを言っているのも面白いですね。
得意なことを教えてください。
お喋りすることですかね。小さい頃はすごく苦手で人見知りでしたけど。お酒を飲みながら喋るのが好きだし、旅行をしても人に会うのが楽しい。最近旅行した小豆島のお店でジェラートを食べていたんですけど、たまたま居合わせたフランス人と日本人のお客さんが、自然農法を実践している国際規格で自然農をされている農家さんとウーファー*さんでした。それで農業の話をしたり、子どもとの自然体験の話をしたり。宿では台湾から来ていた方と日本語、英語、台湾語を交えてお喋りしてSNSで繋がるということもありました。
*ホストとなる農家が食事と宿泊場所、そして農業に関わる知識を”ウーファー”と呼ばれる滞在者に提供し、ウーファーは労働力を提供する、グリーンツーリズムのひとつ。
参考ウェブサイト:WWOOFジャパン
園の近くの緑地では、犬の散歩をしている方達が話しかけて下さって、子どもを中心にして会話が生まれることが多いですね。どこそこに実がなっているよ、とか、周りの自然について会話しています。お店の方もとても暖かいです。先日もお魚屋さんが、わざわざ大きなカツオを奥から出して見せてくださって。散歩の途中で怒られたこともいまだにないですね。
「しぜんの国保育園」で働くことについて
しぜんの国を知ったきっかけ
園長の青山さんとサタデーナイト(*青山園長が自主企画するイベント)で出会って、「僕には仲間がいるんだ」、と伺って。その中に、当時しぜんの国保育園の園長だった紘良さんのお名前もあがりました。その頃、保育業界の中で同世代の仲間ができてきた時期で、ちょうど一回り先輩世代にあたる青山さんたちのそういう関係性に憧れがありました。当時青山さんが勤めていた「りんごの木」でCOINN(紘良理事長が率いるチルドレンミュージックバンド)のライブをみて、園長をやりながらこんな形で外に発信している人がいるんだな、と知りました。
なぜしぜんの国を選んだのですか?
一つはここで働く人たちとの繋がりが生まれたこと。もう一つは、ビジネスや他の業界とも出会いたいと思っていたのですが、ここにはそうした外との繋がりもありますから。タイミング的にもちょうど良い時期でした。
しぜんの国で働く前には何をしていましたか?
幼稚園から高校まで一貫だった法人で働いていました。その関係で、幼稚園、保育士、小学校の教諭の資格を全て取得しました。小学校、幼稚園ののち、結局一番最初になりたかった保育士がやりたくて、戻った感じです。
もともと、高校の時は深海とか、宇宙といった未知の世界に興味があったけど、思いとは裏腹に数学が苦手で無理だなあと 笑。改めて考えた時、子どもと関わる仕事がしたいなと思って、素直にそちらに進みました。
男性だから、というだけで、学生の時に「そんなのできないよ」、とか周りの人に言われたこともあります。塾や出版など教育関係の一般企業に向けて就職活動もしたんですけど、ある時すっぱりやめました。これは自分のやりたいこととは違う、と思って。そこから小学校、幼稚園の教諭を経て、保育士になった、という経歴です。
上町は青山園長をはじめ、かなり「濃い人」が働いていると伺っていますが、同僚はどんな人たちですか?
4月に開園したのですが、色んな課題があっても前向きに笑っていられる人たちですね。日頃一緒に働く仲間同士だから、伝え方とかコミュニケーションには気をつけるけど、色々あっても結局最後はみんなで笑っちゃう。
それから、子どもを1人の人間として見よう、という人が多い。“保育士の私”、みたいな仮面は被っていない、素の自分でいつも触れ合っている感じ。人って、生身でいるとみんな実は「変」なのが普通だと思うんです。だからこそ「ちょっと濃い」とか、「変」、って言われるのかなと思いますよ 笑。
子どもたちとのミーティングについて
4歳、5歳の幼児さんクラスは、週に3回はみんなで円になってミーティングをしています。大人も子どもも対等に寄り合う場を作るのが目的です。集まる、聞く、声をだす(発言する)、という段階があるのですが、最終的に話し合いできるまでになるのがステップ10だとしたら、4ヶ月目なので、今はまだステップの半分もいっていない感じですね。まだ組み立て中で、他の人の話を聞く練習をしています。ステップ10に行くのがいつか、楽しみつつ苦しみつつやってます 笑。話したいことや相談したいことをみんなで遠慮なく話し合える環境づくりを目指しています。
園ではどんな過ごし方をしていますか?1日の流れを教えてください。
10時前ぐらいに散歩に行くなど、午前中は外に出る人たちと園の中にいる人たちとがいます。お昼前には幼児のみんなはミーティングのために集まります。その後ごはんを食べて、午後は自由に遊ぶ。週に1回は造形教室があり、楽しみにする子もいてリズムができてきましたね。
自主企画活動「保育語りbar」について
園での保育以外にも活動をされているそうですが、「保育語りbar」について教えてください。まず、設立のきっかけは何ですか?
悩みを同世代で分かち合ったら、という青山さんのアドバイスに端を発して、友人と2人で立ち上げました。
「保育語りbar」の活動の目的とその内容
当初は限られた人たちで話をする会だったのが、メンバーが別々の園にいながら支え合うよになっていて、もう1歩広げて、色んな人が来てくれたら面白いかな、と。そこから会の名前も「保育語りbar」になりました。色んな人と出会って、話したいなというのが一番の目的。4人で企画しているんですが、各々が転職したり結婚したりして、色んなライフステージや立場になっていくと、自ずとやりたいことも変わってきて、今はその4人を中心に、それに乗っかりたい人が寄ってきてくれる、というコミュニティができています。
内容としては、例えばどこかの園をみんなで見学に行ったり、エピソードを語るのがとても上手な保育者がいて、その人の実践について話を聞いてみたり。海でバーベキューをやる会では、海という場で自然環境について考える、とか、保育とは別の趣向の会もありました。セクシャルマイノリティの方から話を聞く会がきっかけで、保育園にも必ずそういう子が一定数いるはずだな、と目を向けられるようになったのは大きいですね。2ヶ月に1回程度のペースで、ゆるーくやっています。
「保育語りbar 」に参加している人たち
この活動を知ったもう少し若い世代が同じようなコミュニティ作りをしていたり、ここがなかったら出会わなかったような世代や地域の方との繋がりができています。青森などの遠方からきてくれたり、逆にこんなことやりませんか、という企画の提案をもらえたりもするし、業界に顔なじみが増えました。
これからの展望
今までは保育を綺麗に語る場になっていたな、という反省があるので、もっと生々しい実践者ならではの企画をしていきたいですね。エピソードを軸に何ができるかな、とか、日本の風土を考えた時に、果たしてレッジョ*って合っているのかな?とか、今是とされているものにも、あえて疑問を投げかけて検証してみたいですね。
*レッジョ・エミリア:イタリアのレッジョ・エミリア市で実践されている、芸術を通して子どもたちがもつ自主性を伸ばす幼児教育メソッド。
石上さんは、日々ずっと「暮らし合う」環境作りを考えていきたい、と語ります。環境も含めて、まだまだ試行錯誤の部分がある、開園から4ヶ月目の上町しぜんの国保育園。柔らかい部分があるからこそ、子どもたち、保護者のみなさん、保育者、そして近隣のみなさんとの対話や議論から、色んなエッセンスを取り込んで、みんなの居場所にしていくことができるのではないでしょうか。
上町しぜんの国保育園で働くことに興味がある方は、東香会の採用ページをご覧ください。