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small village 10th Anniversary

しぜんの国保育園small villageの10年間を振り返る(前編)

Koryo, Miwa, small village, toukoukai

2025/05/16

町田市忠生地区にあるしぜんの国保育園の新園舎small village(スモールヴィレッジ)の竣工から2024年で10年が経ちました。これを記念して、東香会の職員や関係者を招き、この10年間を振り返る記念イベントを行いました。

円を描くように置かれたイスに、まずは新園舎small villageの建築を推進した社会福祉法人東香会 理事長の齋藤紘良と、建築を手掛けたナフ・アーキテクトアンドデザインの中佐昭夫さんの二人が腰かけてのトークセッションからはじまりました。その後、二人の周りに加わっていったのはsmall villageの保育に携わってきた職員や理事たち。新園舎ができたことによる保育のエピソードや、関係性が深まった今だからこそ話せる当時の素直な心境を振り返りながらのトークとなりました。

多くの人びとと関わりを深め、共創していった新園舎small village

東香会理事長の齋藤紘良(左) 建築家の中佐昭夫さん(右)

東香会理事長の齋藤紘良(左) ナフ・アーキテクトアンドデザインの中佐昭夫さん(右)

東香会理事長 齋藤紘良(以下、紘良)
新園舎の計画は、2010年頃からはじまりました。当時は待機児童が多く町田市だけで1,000人くらい、一園あたりでは20人くらいが待機している状況も重なり、定員を増やすことで町田市の許可を得て建築できることになりました。

ナフ・アーキテクトアンドデザイン 中佐昭夫(以下、中佐)
どういった建物を建てるか、色々なアイデアが出ました。荒唐無稽なものやエキセントリックなものもありましたね。

紘良
空中にある園舎のアイデアから、「スター・ウォーズ」に出てくる毛むくじゃらの「イウォーク族」が住む木の上の家に発展して、いいね!という話になりました。すると中佐さんが筒状の家が並び、木の上で廊下が繋がったようなイメージ通りの設計を作ってきたのには驚きました。建築費は倍以上になっていましたが(笑)。

中佐
妄想にアクセルを踏み過ぎた面もありましたが、すごく楽しみながら設計させてもらいました。

紘良
この「空中に浮く」というアイデアがsmall villageの面白みなんですが、それがネックにもなりました。建物が浮いているような設計のため図面を見た行政の担当者から「10階建てのビルですか?」と聞かれたり(笑)。

訪れた北欧での学びの時間が、ジャムセッションのように建築へと続いていく

紘良
その頃、北欧での保育研修計画がありました。当時30代前半だった私は、保育を考える日が浅く、必死で勉強するうちに、イタリアのレッジョエミリアや北欧など、自分達がやっている保育と違う世界観があることに気がつきました。また、新園舎を考えるにあたり、職員とのコミュニケーションよりもただ自分なりの保育を妄想するばかりだったこともあって、保育の学びを深める北欧研修に職員と行きました。

当時、研修で良いなと思ったのは、子ども自身が行う「自分語り」というサークルタイムです。自分のことを語れる安心できる場づくりと、家のようにくつろげる保育に大きな影響を受けました。今の東香会だと「セッション」や「ミーティング」にあたりますが、当時しぜんの国保育園では、全くと言っていいほど「自分語り」を行っていませんでした。その後、保育統括を担う青山さんに出会い、子どもたちとのミーティングについて理解を深めていくことになるのですが。

また、建物に関してはフィンランドの「エシコウル」という年長児(6歳)が通う保育環境に影響を受けました。シンプルな白いお皿のようなイメージで、でも家庭的でもあったり、細かなディテールについても参考になり、そこから着想を得て何気ない「しつらえ」が加わったと感じます。

この研修には、中佐さんも同行いただきました。中佐さんと私は同室に泊まったのですが、見たものや感じたことを振り返り、お互いの価値観を伝え合う良い時間となりました。研修と話し合いを経て、設計も変化していきましたね。

中佐
私も音楽をやっていたものですから、ジャムセッションのように掛け合いで園舎をつくっていく感覚がありました。small villageに来るたびにポジティブな意味で手垢がつき、アレンジされていくのが嬉しいです。あの設計はどうやって思いついたのかと聞かれることもあるのですが、良い言葉が見つからず、ぼくが設計したとも言えるし、皆さんが設計したとも言えると思います。

エントランスの装飾とsmall villageの模型

紘良
そういう時間を一緒に過ごしていく中で、中佐さんが私たちの気持ちに寄り添ってくれるのを感じ続けていました。だからこそ、建物が完成して終わりではなくて、今現在も変化が起き続けている。当時一緒に家具作りプロジェクトを行なったコクヨさんや、現在はmitosayaを運営する醸造家の江口宏志さん、シェアオフィスを運営されている田中春明さんたちともワークショップをしました。

その後もさまざまなことを経る中、完成間近の2014年3月に大雪が降り、本当に大変でした…。建物ができてないのに子どもたちの登園日が来てしまう!と焦る中、行政からは急き立てられ、現場からは無理だと言われながら、建物はなんとか3月31日に完成しました。ただ、建物が完成して終わりじゃないんですよね。むしろこれが始まりでした。


竣工時を当時を振り返った写真

新園舎建築を近くで見守ってきた、しぜんの国保育園 現園長と理事が振り返る10年

東香会 業務執行理事・本部長 安永哲郎(以下、安永)
私は当時、コクヨという文具や家具の会社でsmall villageの建築に合わせた新しい家具づくりに関わりました、保育士の皆さんともデザインのプロセスをともにしました。。
新園舎建築にあたる紘良さんの大変さは顔色からもうかがえました。

しぜんの国保育園 園長 齋藤美和(以下、美和)
当時の紘良さんは、気持ちも身体も忙しく、いつも緊張感をまとっていました。私は家族でもありますが、どうすることもできなくてもどかしかったですね。
あと、私は2014年のsmall villageの竣工式のときにギックリ腰になってしまって。今なら素直に言えるのですが、当時は周りのみんなに弱音を吐けないような感じが少しあって。そう思うと、この10年で弱音を吐けるとか、助けてほしい時に助けてと言える人が増えたなぁと思います。


(左から)齋藤美和、安永哲郎

安永
私はコクヨで、保育園の空間づくりに携わったことがあったこともあり、保育園はただただ優しい世界をイメージしていました。でも、しぜんの国の人たちからはそれだけでは、エネルギーを感じました。
当時、関わる人たちにとっても未知の経験だったからそ生まれたエネルギーで荒々しくもズンズン前に進んでいくことに緊張感もありました。
この10年で東香会で起きた事を考えると、新鮮でもあり懐かしくもあり、small villageができてからの時間の膨らみを感じます。

美和
身近で見ていると、紘良さんは繊細な部分もあって、普通に悩むし、おなかも壊すし、落ち込むし、そういう人が理事長っていうのは面白い法人だなと思っています。保育者や関係者の皆さんのおかげで、しなやかでいられる場になっていったんだなと思いました。紘良さんが大事にしてきた、ずっと好きでいることを続けていった先に、音楽があったり、保育では青山さんと繋がっていったり、その人の大切に握ってきたものが強くあって、しなやかに変化できるようになってきたのがよかったなと思います。

私はこの10年、建築と共にまた人も育って、新しい命が生まれたり、命の循環を園舎と共に感じています。去年お亡くなりになった正和幼稚園の元園長先生だった紘良さんの叔父から、新園舎に合いそうとアンティークの船の舵をもらいました。紘良さんから今年の新春に職員にメッセージを送った時に「各園長たちが集まる理事会が自分の母船のようなイメージ」と話していて、10年経ってそういう船ができたんだなぁと叔父からもらった舵を見るたびに思っています。

安永
新園舎ができたことでハードとして環境が整ったイメージだったんですが、その後、東香会の理事として関わる中で、物理的な建物というよりも、人とのつながりや対話の在り方など、目に見えない空気のようなものが東香会を包んで広がってきているように感じます。だから毎月の理事ミーティングが楽しくて。具体的な話も抽象的な話も同じように、その包まれるような感覚の中で話し合えることの喜びを感じます。
もとを辿るとこの空間が始まりで、ここから先、どう進んでいくのかはわかりませんが、この法人にしなやかな変化が訪れたスタートの素敵なシンボルだなと思います。


ピクセルアーティストのhermippe (ヘルミッペ)さんによるライブドローイング


しぜんの国保育園のキッチン職員によるケーキと、東香会の元職員で花綵(はなづな)のフラワースタイリスト野沢ちかさんの会場装飾


(後編につづきます)

当日のイベントの様子(映像:波田野州平)