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意識の許容範囲がぐっと広がる、その瞬間を共有したい スコラ・ルームを語る 理事長インタビュー:前編

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2025/05/12

2025年5月30日(金)、トーク&ライヴ主体のミニセミナー『schola room(スコラ・ルーム)』を開催します。『schola room』は、子どもを中心としたコミュニティ作りの入口となる講座とカルチャー体験を詰め込んだ保育の自由研究セミナー『SCHOLA GARDEN』のスピンオフイベントです。 開催にちなみ、この企画のプロデューサーで東香会理事長の齋藤紘良に「スコラ・ガーデン/スコラ・ルーム」についてインタビューをおこないました。

齋藤紘良 Saito Koryo 1980年生まれ。社会福祉法人 東香会(とうこうかい)理事長。寛永6年(1629年)に建立された簗田寺(りょうでんじ)の副住職、楽曲提供や「COINN(コイン)」として活動するミュージシャンなど多彩な顔を持つ。町田の里山地域でのさまざまな活動を通して地域の豊かな文化を創造。全国私立保育連盟研究企画委員、和光高校「保育と教育」非常勤講師(〜2023年)大妻女子大学家政学部児童学科講師(2023年〜)


ヨーロッパの伝統楽器であるバグパイプを手に

ー 理事長のお仕事ってどんなことですか?
さまざまな会議に出席したり、法人内の各施設を回ったりと、”狩猟採集”のような役割だと思っています。外へ出て、保育に限らずにいろんな要素を狩って「こう言い換えれば保育とつながるかな」という実りを蓄え「こんなものが採れたよ」と村の仲間たちに持っていく(施設長や職員との会議に展開する)といった役割です。 一方で、自分たちの村で採れたものを外の人たちに持っていき、物々交換のように「こんなものがありますよ」と提示するのも自分の役目。子どもたちと遊びながら、村で採れたものを「エピソード」のかたちにして保育以外の人たちに届けています。 理事長の仕事以外では、大学に講師として行ったり、東香会のルーツになっているお寺の仕事をしたりしています。

ー 盛りだくさんですね!
今年4月からは、狩りをする役割はそのままに、村で採れたものを外の人へ向けて自分の手で加工し、精度を上げるための時間を作ろうと思っています。具体的には、保育のエピソードをしっかりと文章化していろいろな媒体で発表するというイメージです。(保育のエピソードは後半に詳しく)

ー スコラ・ガーデンやスコラ・ルームも、普段は保育の外にいる方々に向けた発信の一つかと思いますが、どのようなきっかけで始めたのでしょうか?
保育の現場や枠組みの中でずっと考えていると、一方向の視点しか捉えられないことに気づきました。どうやったらいろいろな視点やジャンルから保育を考えることができるだろうか?と思ったのがことがきっかけです。企画を計画した当初、東香会ではなく別の場所で保育をしていた青山誠(現 東香会 保育統括理事)に相談しました。
保育に専念していると、どうしても自分の思考が凝り固まってしまいます。それを意識的に解体するために、自分たちでいろいろな視点や他のジャンルの人たちを呼んで一緒に語ることで、自分の頭や脳の使い方が保育以外のところから保育を見つめなおす方に切り替わるのではないかと企画したことが出発点です。

SCHOLA GARDEN

ー 保育の目線だけで見てしまうとは具体的にはどのようなことでしょうか?
保育の目線になると、子どもを勝手に理解したつもりになってしまいます。多くの子どもと長い間過ごすことで”子ども”という一般的な解釈の理解はできたとしても、目の前にいる子のことを理解することはできないんです。他の相手のことを100%理解することはできない。なのに、勝手に保育という目線だと目の前の子どもを全部わかった気になってしまう。そこから離れたい衝動に駆られたんです。保育ではないところから見つめ直すことによって、全然見えてなかった景色を見たり、自分の中の気づきを増やしたいと思いました。つまり、重要なことは子どもを理解しようと考察し続ける想いにほかなりません。
子どものことをいつも考えている保育者にとっても、外で発表する場が自信にもつながるような形を目指して、さまざまなジャンルの人々が集まる場所となるように組み立てています。

ー 回を重ねながら、試行錯誤している部分もあるのですね。スコラ・ガーデンとスコラ・ルームの違いについて教えてください
スコラ・ガーデンは、さまざまなジャンルの人たちが集まって、子どものことを話したり、子どもを介して社会を考え直すための対話の場です。そこから一つのジャンルにクローズアップする分科会のようなイベントがスコラ・ルームです。 現在、スコラ・ルームでは対談と音楽ライブがベーシックな形になっています。

ー 音楽ライブを入れているのはなぜですか?
僕が音楽が好きだからです(笑)。

ーだと思いました(笑)。
対談は言葉の世界に偏り過ぎてしまうことがあるから、感覚的な世界と混ぜたいという思いもあります。

ー スコラ・ルームは次回で3回目を迎えます。1、2回目のエピソードを教えてください
第1回のゲストは人類学者の奥野克巳さんでした。「人類とは何か」という問いの一部に保育があると思っているので、人類を考えることが保育を考えることに直結している実感がありました。

第1回の様子。第1回開催レポート

人類学には複数の側面があります。一つは手法としての人類学。フィールドワークという手法があったり、観察の仕方があったりという技術です。
もう一方で「人類とは何なのか」と探求する好奇心みたいなところもあります。
その両方が保育と同じように考えられると感じています。保育も、技術と探求を分けて考えられると思いました。 子ども独特の世界の社会を保育者がフィールドワークすることによって、少しずつ彼らの生活や価値観、世界観が分かっていくという点で、人類学の手法を保育に取り入れられるのではないかと思っています。
同じ回ではceroの髙城晶平さんもゲストにお招きし、奥野さんと僕と三人での鼎談もおこないました。その後はソロで演奏をしていただきました。 第2回はラジオパーソナリティの長井優希乃さんとミュージシャンの高野寛さんをお招きしました。長井さんはアフリカでフィールドワークをしていた方で、そこでもやっぱり人類とは何かということにつながるような話ができましたね。
長井さんは、アフリカで何年間か過ごした時の子どもの様子を教えてくれました。ある地域の子どもがどのような文化の中で育っているかを知って、日本の同じくらいの子たちとの差異を考えたり、日本でしていることは全然当たり前じゃないと感じたりしました。

第2回の様子

例えば、あるアフリカの地域の学校では保健体育のような授業でマラリアの話をするときはみんなみんなで歌うそうなんです。日本だったら病原菌はどんなもので、だから恐ろしい、といった知識から教える流れになるところ、そうではなくて歌で教えて「マラリア怖ぇ!」とみんなで叫ぶのです。おそらく知識をアクティブ化して教える文化なのでしょう。音楽や身体を通して、マラリアという言葉や、それがどんなものなのかを共有していく。 日本では知識で共有するけれど、アフリカでは日常生活の中で文化を通じて知っていくという違いがいいですね。ラップのようなノリで体に染み込ませていくのだと思います。
一方でどっちがいいとか悪いとかということに安易に落とさずに、「向こうではこうで、こっちではこう」と考えると面白いなと。例えば暗記とラップどっちで覚えるかと比較する際に、同じ人間なのにこんなにも幅があるんだ!といったことを知ることで、自分の中の意識の許容範囲がぐっと広がる感覚がありますよね。その広がった瞬間が面白いし、その感覚をイベントに来た人と共有したいんです。毎回来てほしいです(笑) もしかしたら第1回から第3回は人類学についての学びが共通しているかもしれません。主題を決めて回数を重ねていくと、みんなで気付けることが増えてくるかもしれない。

ー 来場してくださった方は保育者の方が多いのでしょうか?
正確にはわからないですが、3分の1ぐらいが保育者、3分の2は保育以外の人ではないかと思います。ライブを目当てに来られた方は保育のことをあまり知らないかもしれませんが、その方たちにとっての保育に出会うきっかけになるというのも面白いです。 保育の方たちとは保育の思考でどっぷり語れる機会が作りやすく、他のきっかけでも出会えるのですが、普段保育に関わりがない方たちがたまたま東香会のイベントに来て、僕らの保育観を聞いてくれる場というのはとても貴重だと思っています。
単純に人類学に興味があってイベントに来たけれども、保育のこだわりがビシバシ伝わってきて、保育ってこういうものだという思い込みが、全然違うものへと変わったとか、初めて保育施設の中に入って思ってもいない話の展開になったのが刺激的だったという感想をいただきます。ライブを観に来た人たちにとってもちょっとしたカルチャーショックを受ける機会になるのではないかと思います。

ー 第3回の対談ゲストにはこれからの社会を考え探究するコクヨ株式会社のオウンドメディア「 WORKSIGHT」の編集長・山下正太郎さん、ライブにはアーティストの井手健介さんを迎えますがどのような回になりそうですか?

(WORKSIGHT第26号「こどもたち」を手に取りながら)素晴らしい本ですね。保育という言葉を使わずに子どものことをあらゆる角度から考えている。僕らが日常的に使っている保育とはちょっとニュアンスが違うように思います。すべてのことをいろいろな角度から子どもにつなげて話しているので、最初のスコラ・ガーデンでやりたかったことを別の形で表してもらっているようだと感じました。 編集長の山下さんにどういう思いでこのWORKSIGHTを作られているか、さらに子どもの楽園の話は英題だと「Close Encounters with Kids(こどもたちとの遭遇)」だから子どもたちとどう出会っていくか、お聞きしたいですね。
僕も子どもとは何かということから保育の世界に入っていったので、ここで語られている視点は自分と近いと感じます。保育はこういうものだという断定からではなく、子どもとは何かという一つの問いを立て、そこから浮かび上がってくる新しい発見を常に面白がって出会っていくという点が興味深いです。
音楽ライブに関しては、井手さんの音楽が純粋にいい音楽だから今回お声がけしました。また、さまざまな視点の変化の楽しみ方を知っている方だと思うので。僕らは子どもを介して世界の楽しみ方を模索しているけど、井手さんは音楽や映画を介して世界を楽しむ・遊んでいるというところが共通するのではないかと思っていつも活動をフォローしています。
彼は最近、映像作家としても活躍していて、他のアーティストのミュージックビデオの撮影もされています。そうすることで自分自身の音楽フィールドを改めて客観視して、そこに意味や価値を作っているということがすごく面白いと思うんですよね。
そのメタ認知的な角度でどうやって制作活動しているのかという部分も気になります。依頼を受けて映像を作るのと、自己表現としての音楽はやはり違うと思うのですが、もしかすると意外と同じスタンスなのか、あるいは別のチャンネルを切り替えるようにやっているのか訊いてみたい。
僕は保育と音楽という全然違うジャンルを組み合わせているからある意味やりやすいですが、音楽と映像って近いし、ダイレクトでもあるから、そこをどうやって認識されているのか気になります。
対談のメインは山下さんと僕ですが、その後井手さんを交えて3人で鼎談も予定しています。井手さんにとって保育や子どもがどういうふうに見えているのかなどを訊いてみたいですね。

(後編へ続く)


schola room(スコラ・ルーム)#03

– TALK
『「小さきもの」の人類学とは?- 〜WORKSIGHT 26号 『こどもたち』から読み解く〜』

山下 正太郎(WORKSIGHT 編集長)+ 齋藤 紘良(社会福祉法人東香会 理事長)

– LIVE
井手 健介

日時:
2025年5月30日(金)18:30開場 / 19:00開演(21:30終演予定)

会場:
BUTTER
渋谷東しぜんの国こども園 small alley 1階
東京都渋谷区東1-29-1 GoogleMap
(JR「渋谷駅」新南改札、東急・東京メトロ「渋谷駅」C2出口より徒歩約10分)

チケット:Peatixよりお申し込みください

イベント情報:
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