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好きなことと、しごとの距離ー設計事務所ima 小林恭さん、マナさんとの対談から

Koryo, media, people, small alley, sound

2018/12/30

ショップや展覧会をはじめ、国内外で独創的な空間を手がける設計事務所imaの小林恭さん、マナさんご夫妻。渋谷東しぜんの国こども園small alleyでは、内装コーディネートと可動家具デザインを担当いただきました。恭さんは設計の他にも、音楽のお仕事でご活躍、マナさんは、震災をきっかけに動物愛護の活動もされています。

恭さんがメインDJをつとめるA GOOD TRACKで齋藤理事長がDJとして参加するこの日、井の頭公園に面したご自宅兼事務所を訪ねました。これまでのお仕事で参考にされたであろう資料が揃い、スピーカーからは心地よい音楽が流れます。キッチンが真ん中に据えられた間取りや、預かっているという犬たちの気配が、いわゆる「仕事場」のイメージとは一線を画す空間にしていました。

1階は事務所で、2階に上がればすぐご自宅、という環境。生活と仕事、お互いの好きなことふだん、どんな風にそれぞれとの距離をデザインしていらっしゃるのでしょうか?

今回は、お仕事とその周りのことを中心にお話を伺ってみました。

 



動物と一緒の仕事場で培う瞬発力

齋藤:まず伺いたいのですが、事務所と自宅が一緒ってどういう感覚なんですか?

マナさん私は動物が好きで、生活するところと仕事するところを限りなく近づけたいと思っていたんですけど、ここに引っ越すまではずっと分かれていて。動物が歳をとってきた時に、病院行って事務所行って、また病院行って…みたいなことが続いて、全部一緒のところがいいなと思っていました。そういう思いから、今こうなった感じです。

恭さん:自分はそんなに一緒にしたいというのはなかったけど、マナの要望があったので、どこかいいところがないか探しました。それまでは事務所と自宅は別々でした。

愛護団体から預かっているという、家族のカカオ。

齋藤:引越しされてからは、生活と仕事は入り組んでいるのですか?

マナさん:他の方から見ると入り組みすぎと思われるかもしれないんですけど、私が考える「生きること」は、仕事もして、動物を可愛がって、子供がいるなら一緒にいて、ご飯を作って…そういうことが全部近い方がいいんじゃないかと思っています。自分にとってはそれが自然で。スタッフさんたちがどう考えているかは謎ですけど…。

齋藤:結構設計とかデザインって根詰めるじゃないですか。生活も自ずとそういうリズムになってしまいませんか?

恭さん1階が事務所、2階が家なので、「あがりまーす」って階段を上がって靴脱いだら完全にオフになる(1階事務所は土足)。そこからはもう電話もかかってこないし、一回そこで線を引いているので、混ざってしまう感じじゃないですね。遅くまでやることもあるけど、仕事は基本的に1階でやっているので、完全にそこでスイッチオフしています。

齋藤自宅が仕事場だと、気を緩めると生活の主体が仕事になりがちだけれども、小林さんたちの中でそういうルールみたいなのがあるんですね。

恭さんの世話にしても、平日も朝は犬の散歩を僕たちでするけど、結構スタッフに面倒見てもらっています。(小林さんたちが仕事を終えた)夜は7時ぐらいに犬の散歩もしてくれるので、そこでも線が切れている。

マナさん愛護活動も仕事のうちというか。

恭さんプチシェルターだよね。

マナさん:震災がきっかけで福島の犬を預かるようになったんですけど。やっぱり忙しいから、みんなそういうことできないだろうなって思って、ボランティアみたいなことが仕事場に居ながらにしてできるよ、っていう。臨機応変に付き合えるから、そういうことも学んで欲しいなと。「うわ、うんこしちゃった、みんなで片付けろ~!」とか、そういう瞬発力。

恭さんアドリブ力。

齋藤いいですね!

マナさん 恭さん育と一緒。


齋藤
ともすると、仕事は仕事みたいな感じで、仕事以外のことを入れたくなくなるじゃないですか。
例えば保育だと、子どもと一緒に生活しているので、仕事の中にイレギュラーが入ってくるのが常なのですが。

マナさんスタッフの中にはもっと集中したいと思う人もいるかもしれないけど笑。

齋藤レギュラーに慣れていないと、主体性も発揮できない、ということはあるかもしれません。

音楽を仕事に巻き込むー意識的に作る余白ー

恭さん:齋藤さんも、保育が仕事で、音楽やお寺(齋藤は、町田にある簗田寺の副住職としても活動)、生活もある。そういうのはどう切り替えていますか?

齋藤実は音楽を保育に取り入れるのは最初勇気が要りました。音楽活動をやってる事もなかなか言えなくて。というのは、みんな忙しくしてる中で、音楽がどうのって話ができる雰囲気じゃなかった。”園長なのにそんなことして…”って思われる不安がありました。忙しくしなきゃいけないのかな、と。

新しい町田の園舎ができるときに、自分がそういう感覚でいると、そういう雰囲気が加速するなと思って、仕事の中に意識して余白を持ってくるようにして、ようやく追いついてきた、という感じですね。

マナさんター持って、各教室回ってるの、素敵ですよね。

齋藤:”こういういやつがいてもいい”って、意識的にやろうとしていますね。

恭さん今かかってるのがUSENのチャンネル(毎週土曜日7時からのusen for Cafe Apres-midi というラジオ番組)で、選曲を担当しているのですが、ギャランティーは事務所に入るようにしているので、みんなが設計の仕事している横で、僕は音楽をセレクトしている。

設計は主としてやっているけど、動物の世話もしているし、僕は僕で音楽の活動もやったりとか、割と幅が広がっている。もっと自分たちがやりたいことも、自由にやっていこう、という状態ですね。

齋藤それが多分、距離のデザインに関係があるのかな。「保育園」とか「デザイン事務所」という枠と音楽に、今までどれだけの距離があったのかなと。そこにいる人によってそれが近くなっても遠くなってもいいのかなって思いますね。

恭さん:音楽をやってるからといってデザインの仕事がおろそかになってるわけじゃないし、逆に違うことをやってるから、仕事に活かせるというか。さっきマナが言っていたように、アドリブを利かす術が犬の世話で学べれば、それを仕事に活かせるし、もっと臨機応変にいろんなことを学んで、仕事に反映するといいかなと思っています。線を引く時代から変わってきてる。設計は設計だけやるという感じじゃないですね。


マナさん:
10才ぐらい下の子は、グラフィックもやれば設計も、企画も、ブランディングもやるっていう人がすごい増えていて、みんな才能あるな~と。

齋藤それぞれがプロとしてのスキルまで達しているかというのは重要なことだと思いますけど。

マナさん:ただ、感性がじわじわ出てきているというか。グラフィックにしても設計にしても、一人の人が出しているものだから、統一感が出て、世界観がすごいわかる。幅広い人が増えてるんじゃないかなと思います。

齋藤確かに一つの入り口から入っていくと、全く違うとこに出ていくってことが最近増えてるかな。人同士でも意外なところで掛け合わされたりとか。

マナさん:え?ここで繋がってるの?!って。今回のお話(こども園のお仕事)も、安永さん(法人の理事)からで。もともと奥様と仲がよくて、面白いから何か一緒にできればって言ってくれていた。今までだったらすれ違うだけなのが、繋がっちゃう、っていう。

齋藤:今日もDJのお誘いをいただいた。保育業界にとどまっていたらなかなかないお話で、嬉しいですね。

恭さん:それがまた面白い。型を持つのも重要だけど、それにハマりすぎちゃってたら面白くない。ときにはハメ外して、時にはカチッと、バランスを保つのが難しいけど、そういうことを繰り返している中から、また新しい型が生まれるんじゃないかな、と思います。


2ヶ月を経て見えてきた、渋谷の子どもたち


恭さんから、2ヶ月が経ったこども園の様子について質問がありました。

齋藤:2ヶ月と思えないくらい落ち着いている。子どもたちがまだ慣れていない最初の1ヶ月は、普通だとあちらこちらで泣く声が聞こえるはずなんだけど、すっかり慣れていて。3、4歳の幼児たちも外には毎日出てますね。0歳も出て行っているし、お昼寝明けに3、4歳が恵比寿ガーデンプレイスでおやつ食べて帰ってくるとか。

ナさん:都会っ子ですね。

齋藤代々木公園ではしゃいで帰ってくるとか、外に出ていくことは結構実現していますね。

恭さん:何故でしょうね、その落ち着きって。あの通路(3階の路地のような廊下)は走り回ってますか?

齋藤人数が少ないから半分くらい閉じているけど、開放したから走るっていうこともないですね。

マナさんじゃあ、やっぱりおとなしいんですね。

齋藤まだ何かが眠っているかもしれない。何をしたらもっと自分を出していけるか、研究の余地がありますね。僕も町田と渋谷にいることで初めて気づきましたけど。

面白い方が周りに多く住んでいて、コラボの話がいっぱいきているのはいいですね。先週もアーバンファーマーさんといって、都市でも農家ができる、という活動をされているんですが、渋谷区と連携して小さい農園をやっていて、子ども達が管理するというご提案をいただきました。子ども達がやってくれたら、毎日の水やりが楽だから、と。育ったら食べてもいいって。それから、ミュージシャンの奥さんがやってる近くの障がい者施設で、クッキーを焼いているんですけど、とても美味しくて、カフェで仕入れをやろうかなと。

恭さん地域の特性は色々あるでしょうね。都市ならではの考え方ですね。

齋藤農場は、ボックス型になってるんだけど、人が1人入れて、中にまな板を敷いて、ボックスの横に畳めるテーブルがついてるから、それを出してサラダの盛り付けをして、そのままホイって出せる。たまにやっているみたいですよ。

園の目と鼻の先に位置する、小さな農場。


マナさんマンモスマンションに住んでいる親戚がいて、子どもがその敷地内で遊んでるのですが、敷地の外でも道路を気にせず横断してしまう。道路っていうものを全然知らないで過ごしているんですよね。

齋藤外に出ざるを得ないから、園庭がないからよかったなと思っています。というのは、園の中だけで考えると、例えばちょっとした段差からジャンプするのも危険、って思いがちだけど、外に出てると実は大した危険じゃないってこともある。大人のマインドが変わるんですよね。

自分で自分の命を守ることを単刀直入に伝えられるし、子どもも自然に緊張感を受け取れる。

マナさんあれだけ広いから、園庭なくても大丈夫なのかなと思ってたけど、そんなに出てるって知らなかったです。

齋藤職員にも、のっけから町田に連れて行きたいって言われて、ちょっとまだ待って、って思ったんですけど笑

マナさんそれは一日仕事になりますね。

齋藤:それだけ外に目が向かってるっていうのはいいのかなと思います。


こども園はまだプレーンな状態、と語る理事長に、あえて凸凹な床を設けることなど、面白そうなご提案をいただきました。今回のこども園での仕事で新たに使った素材を、レストランなど異業種の物件でも取り入れているそうです。お2人とのやりとりからは、生活と仕事、遊びと機能、現実と理想、そういった相反する事柄との柔軟で秀逸なバランスを感じました。


昔から動物が好きだったというマナさん。現在預かっている2匹の犬はいつも1階の事務所に。目の前は井の頭公園で、お散歩コースにもなっている。写真のカカオは甘えん坊で、マナさんの姿が見えないと不安そうに鳴いてしまうため、取材中もずっと近くで過ごしていた。結婚前は、海外旅行は計画を立てすぎず、面白そうなところに出向き、そこで出会ったった人伝てに、また面白い場所を回っていたそう。
ヘルシンキ出張を控えていた恭さん。海外旅行は細かく計画、建築を見て回る。異文化に触れるのが仕事の楽しみの一つだそう。90年代末からDJ活動を開始、BAR MUSIC、NEWPORT、Liltなどで不定期にパーティーを行う。また usen for Cafe Apres-midi では土曜日のディナータイムの選曲を担当。レコードとCDは合わせて10,000枚(!)程度コレクションがあるとのこと。最近お気に入りのレコードと一緒に。

設計事務所ima 

「マリメッコ」の日本および世界の主要都市の店舗をはじめ、「ラプアン カンクリ」のフィンランド・ラプア店、「ファミリア」代官山店、「イル ビゾンテ」日本の全店、中川政七商店が手がけるお土産物店「日本市」などの店舗設計や、ホテル、プロダクトデザイン、プリスクール、展覧会や展示会の会場構成デザインなど、数多くの案件を手がけている。
http://www.ima-ima.com/

小林 恭 Takashi Kobayashi
1966年兵庫県神戸市生まれ。
1990年多摩美術大学インテリアデザイン科卒業後 カザッポ&アソシエイツに入社

小林 マナ Mana Kobayashi
1966年東京都生まれ。
1989年武蔵野美術大学工芸デザイン科卒業後 ディスプレイデザイン会社に入社

共に1997年退社後、建築、デザイン、アートの勉強のため半年間のヨーロッパ旅行へ出る。
1998年帰国後 設計事務所ima(イマ)を設立